2014年10月06日

もみじ廻りて(大久保長編)※序章のみ公開!

更新サボりまくっててすみません・・・!
どうせ誰も見に来てないだろうと思ってたのですが、アクセス解析開いたら訪問者がいる・・・!?
しかも過去作品のページまんべんなく・・・!
どなたかはわかりませぬが、読みに来て下さっていた!ありがとう!

反省(>_<)

今も相変わらずピクシブやモバゲで暴れておりますがw
こちらにも少しは記事をアップしようと思います。
なのですが、最近は小説は同人誌にしか書いて無くって・・・すみませんw

そこで、前記事でも予告した大久保長編「もみじ廻りて」を、ちょっとだけ公開しちゃいます!
これは順番的には君シリーズの0作目、「君はかぐわし」の前のお話になります。
「君はかぐわし」で突然ステキハート関係になっていた、大久保様と小娘ちゃん。
どうしてそうなったのかw もちろん一筋縄ではいきません!w

ぜひ、ご購入を検討いただければ、と・・・エヘw
よろしくお願いします。
それでは、はじまりはじまり〜♪
の、前に!小娘名を入力してちょ!ww

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※まずはお名前入力確認をどうぞ

 主人公は「  」ですか?
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もみじ廻りて(序盤のみ公開)            幕恋創作小説:大久保ルート
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しつこかった残暑も終わり、ほっとするような涼しげな風が流れ始める頃、
わたしは大久保さんについて京の薩摩藩邸に戻ってきていた。
最近では大久保さんの身の回りのお世話は、ほとんどわたしがしている。
相変わらずガンガン怒られたりするけど、不思議とわたしは怖くなくて、
藩邸の女中さんには重宝されていた。

大久保さんのお部屋の空気を入れ替えて、まずはハタキをかける。
未来ではハタキというと埃を落とすイメージだけど、
この時代の掃除の敵は、埃というより砂だ。
アスファルトやコンクリートで敷き詰められてない地面には、いつも土ぼこりが立っていて、
風が舞うたび屋敷内に運ばれては降り積もる。
掃除をさぼると、すぐに障子の桟が白くなるのだ。大変だけど、その分やりがいもある。

この時代に来て数か月、未来に戻る方法はまだわからないけれど、
わたしはあまりそのことを考えないようになっていた。

それよりも、大久保さんのお部屋を整えて、お食事を運んで、お茶を淹れて・・・
毎日忙しく働いて、なんかそれが楽しいし。
それに・・・

「・・・奥さんみたい・・・」

――ってわたし!何言ってんのっ!!

ひとりで恥ずかしくなってバシバシとハタキを振ってると、背後から声が掛った。

「ハタキが折れるぞ」

――ひっ!大久保さん!

「なななななんでいるんですかっ!」
「ここは私の部屋だからな」
「いつからそこにっ!」
「気にするな、何も聞いておらん」
「あはは良かっ・・・た・・・え?」

あれ?何も聞いておらん、って言うからには・・・あれ?
首を傾げるわたしを見て、大久保さんがにやりと笑った。

――やっぱり聞いてたんじゃ!

「掃除はもういい。出かけるぞ。支度しろ」
「えっ、あの、私もですか?」
「そうだ。駕籠を待たせてある、早くしろ」
「は、はいっ」

うう、聞かれたかどうか気になるけど、なんだか急ぎみたいだし。
わざわざ駕籠を呼ぶなんて、どうしたんだろ・・・


掃除道具を片付けて、簡単に身支度をしてから門に急ぐと、大久保さんと半次郎さんの側に
二台の駕籠が待っていた。
大名が乗るような黒い塗の駕籠ではなくて、小さめで四方が簾で囲われている。
すぐに乗れるよう、片側をめくってあって、中の竹組みや、座椅子みたいな背もたれのある
座布団が見えた。

へー・・・、駕籠の中ってこうなってるんだ。

「乗れ」
「えっと・・・じゃ、あの、失礼します」

駕籠の前後にスタンバイしてる人足さんに声をかけてから、簾をくぐる。
地面に置いてある駕籠に乗り込むと急に視線が低くなって、まるで道端に足を投げ出して
座ってるみたいで、なんだか落ち着かない。
お行儀が悪いと思いつつ、駕籠から首だけだすようにして大久保さんを見ると、
もうひとつの駕籠に乗り込む藤色の羽織が見えて、ホッとした。

よかった、一緒にどこかに行くんだよね。

「お嬢さあ、頭引っ込めてくいやんせ」
「あ、はい」

いつのまにか半次郎さんがそばに来ていて、わたしが姿勢を戻すのを確認してから簾を落とした。
日を照り返す地面が見えなくなったせいか、一瞬ひどく暗く感じる。
唯一左右に開けられた小窓から明るい外が見えて、なんとなくきょろきょろしてると、
ぱさっと音がして窓にも布が下ろされたらしく、わたしには駕籠の中の簾と竹組以外何も
見えなくなった。

う、なんかちょっと不安・・・

「安心してくいやんせ。おいがついてもすから」
「あ、はい、すいません」

思わずそう言ってから、すいませんていうのは違ったかな、と考える。

「ありがとうございます」
「楽にしてくいやんせ。大久保さあも一緒ですから」

・・・半次郎さんて、いつもわたしの考えてることがわかるみたいだなあ。

「お嬢さあ、駕籠が浮きもすから、気ぃつけてくいやんせ」

半次郎さんの声に続いて「ほな行きまっせ」という人足さんの声が聞こえた。
すぐにぐっと駕籠が持ち上げられて、宙に浮く頼りない感覚に身を固くする。

「でくうだけ揺らさずにやってくいやんせ」
 
簾越しに聞こえる半次郎さんの声に、駕籠が揺れながら前に進みだした。
とたんに人足さんの歩調に合わせて上下に揺れて、それが意外と激しい。
あわててわたしは駕籠の骨組の竹につかまった。

「お嬢さあ、力を抜いて、揺れに身体を任せてくいやんせ」

まるで中が見えてるような半次郎さんの言葉に、思い切って力を抜いてみると、
少し揺れ方が変わる。

そうか、こらえようと力を入れるから揺れが不自然になるんだ。
ハンモックでゆらゆらする要領と思えば・・・。

「お嬢さあのお国には、駕籠はあいもはんか」

すぐ隣を歩きながら、半次郎さんがのんびりと話しかけてくる。
わたしが未来から来たことは半次郎さんも知ってるみたいだけど、
人足さんたちに聞こえるのを慮ってか、お国といった。

「ないですね、その代わり、車・・・に乗って移動することが多いです」
「はあ、大八に人を乗せて運ぶですか。そや、痛そうなあ」

大八とは荷車のことだ。ちょっとイメージ違うけど、他に説明のしようがない。
まあ、タイヤというか、車輪がついて走るところは同じだから、近いと言えば近いかも。

「えっと、屋根があって、椅子がついてて・・・走ってもあんまり揺れないようになってるんです。
 すごく速いんですよ。人が走るよりずっと」
「そや、すごかなあ」
「他にも、電車とか飛行機とか・・・とにかくどれも速いです。京都から大阪まで、四半時くらい」
「はあ!四半時!なんでん速すぎもす。そいでは、街道の景色を楽しむこっもでけんなあ」

・・・確かにそうかも。
景色と言えば、なんでこの駕籠、窓を塞いだんだろう。

「ね、半次郎さん。どうしてこの駕籠、布で窓隠してるんですか?」

街中で見かける駕籠で、窓をわざわざ隠してるのはあまり見たことがない。

「外が見えないと不安なんですけど・・・」
「さあ、そいは。大久保さあの指示ですから、おいは何も。ふふっ」

何もわからないと言いながら、はっきりと笑い声が含まれている。

うーん、知ってて知らないふり、してるみたい。
でもその様子だと、少なくとも政治的とか切羽詰まった理由ではなさそう。

「行先をわたしに知られちゃダメなんですか?教えてください」
「さあ、おいはなにも」
「あ、道順を覚えられないようにですか?」
「やあ、お嬢さあに限って、そいやあいもはん。いけんせ、覚えられんごっでしょう」
「あっ、ひどい」

方向音痴をあてこすられて、頬を膨らませて言うと、その気配を察したのか半次郎さんが
楽しげに笑った。
わたしもつられて笑う。

ふと、駕籠が止まった。地面に降ろされる反動で、身体がちょっとつんのめる。
それまで宙に揺れていた身体が急に重力を思い出したみたいに、腰に自分の体重がかかった。

もうついたのかな?

「大久保さあに呼ばれもした。ちっと行ってきもす」

え、どうしたんだろう。
 
外の気配をうかがいながら待っていると、すぐに半次郎さんの足音が戻ってきた。

「はは、歩きながらしゃべうなと叱られもした」
「え、すいません」
「気にせじくいやんせ。ほいなら黙って、行きもすよ」

半次郎さんがそう言うと、また駕籠が持ち上がった。足音が隣を歩くのはさっきとかわらない。

どこに行くのかなあ。

正直、歩かなくて済むのはありがたい。
こっちに来てだいぶ歩くのに慣れたとはいえ、とてもこの時代の人の健脚にはかなわないのだ。
 
間断なく続く駕籠の揺れが、だんだん心地よくなってきた。
外が見えないこともあって、わたしはつい目を瞑る。

駕籠の中とはいえ、往来で眠ったりしたら、また大久保さんに怒られる・・・

なんてことを考えながら、わたしは逆らい難い睡魔の波に、身を任せてしまっていた・・・



「起きんか、馬鹿者」
「えっ!」
大久保さんの声に、わたしは一気に目を覚ました。
一瞬自分がどこにいるのかわからなくて、でも間近に迫ってる大久保さんの顔に、
慌てて身を引く。
手をついた反対側の簾が手応え無くするっと逃げて、バランスを崩した。

「きゃっ」

簾の向こうに転がり落ちそうになったわたしの腕を、大久保さんは難なく捕まえた。

「何をやっとるんだ」
「す、すいません・・・」

そっか、駕籠だ。駕籠に乗ったんだっけ。そして眠っちゃったんだ。

「降りろ」
「はい・・・」

腕を捕まえていた大久保さんの手が、するっと滑って手の甲にたどりつく。
あれっと思っていると、そのまま軽く手を握って、駕籠から降りるわたしを導いた。

う、うわーっ!手、握っちゃってますけど・・・!

慣れない大きな手の感触に、恥ずかしくて下を向いたまま駕籠から出る。
腰を上げたとたん、ぐいっとその手を引かれて、ふわりとわたしは立ち上がっていた。
急に広がった視界に鮮やかな紅が飛び込んで、目がくらんで息を飲む。そこは・・・

「もみじ・・・!」
いつの間に山を登ってきていたのだろう、あたりは木々が生い茂る山中の川辺で、
濃い緑の川の両岸に、目の覚めるような紅の葉がこぼれるほど色を誇っていた。

「きれい・・・」
「・・・少し身体が空いたのでな、たまには紅葉狩りも悪くない」

言い訳がましく言う大久保さんに、わたしは胸が一杯になる。
毎日忙しいのに、わたしにきれいな景色を見せたいと思ってくれたんだ。
わたしのこと、考えてくれたんだ。

「ありがとうございます、ほんとにきれい・・・!」
「小娘が寝てしまうのだったら窓を隠す必要はなかったが」
「え、どういうことですか?」
「この景色は、知らずに見た方がよかろう?」

・・・ほんとだ。
大久保さんに手を引かれて立ち上がるまで、わたしは周りがこんな事になってるなんて
知らなかった。
鮮やかな紅が突然目の前に広がって、まるで異世界に放り込まれたみたいだった。
大久保さんが手を握っててくれなかったら、めまいがして倒れたかもしれない。
あらためて、大久保さんの心遣いに胸が熱くなる。

「そいでは、おいはこれで」
「え、半次郎さん?」

振り向くと、半次郎さんが頭を下げていた。

「下流で舟が着くのをお待ちしておいもす」

そういうと、駕籠屋さんも一緒に細い草分け道を戻っていく。
えっと、つまりこれって・・・

「紅葉狩りは舟下りが一番だ。水の緑に映えるからな」
「そうなんですか・・・」

見れば川辺に小さな舟が一艘置いてある。

・・・つまりこれって、二人っきりで紅葉狩り?
それってまるで、デート・・・みたいなんですけどっ!

「乗るぞ」
「は、はい・・・」

ドキドキしすぎて熱に浮かされたように、ちょっとふらふらしながら、
わたしは舟に近づいた。
岸についた舟の舳先側から乗ろうとして、はた、と気づく。
着物じゃ足が上がらないから乗り込めない。
ジーンズとかだったら乗れるんだろうけど・・・まさか裾を割って足を上げるわけにいかないよね。
逡巡してると、大久保さんが何も言わずに、わたしを抱きかかえて舟に乗せる。

「・・・っ!」

びっくりして息を飲んだときには、舟の中に降ろされていた。

――し、心臓が止まるかと思った・・・

大久保さんは、川辺につけていた舟をぐっと押して舟底を砂利から外した。
じゃぶじゃぶっと水音をさせながらすぐに舟に乗り込む。その様子は平静そのものだった。

なんか悔しいなあ、わたしだけドキドキさせられて。

舟の中に置いてあった長い竿を大久保さんが取り上げる。
その竿で、水辺を押すようにすると、舟はゆるやかな流れに乗り出した。
まだ収まらない鼓動に気付かれまいと、わたしは大久保さんに話しかけた。

「・・・えっと、大久保さんが舟を動かすんですか?」
「なんだ、不満か」
「いえ、あの。意外だなって・・・」

半次郎さんにやらせる方が、イメージだよね。

「まあ、たしかに久しぶりだがな」

ふと、大久保さんの足元を見ると、草履も足袋も濡れて、舟底に水たまりを作っていた。

「あの、この舟って、動いても大丈夫ですか?」
「そう簡単に舟はひっくり返らん・・・が、あまり立ち上がらん方がよいぞ」
「あ、はい」

じゃあ、とわたしは手をついて大久保さんににじりよる。

「?」
 
胸元から手拭いを取り出して、濡れた大久保さんの足を拭いた。
濡れちゃったのは仕方ないけど、びしょ濡れのままじゃ気持ち悪いもんね。
できるだけ水気を拭きとってから大久保さんを見上げると、視線がばちっとぶつかった。

「あ、すいません、あんまり拭けてないかもしれませんけど」
「・・・・・・」

あれ?

「大久保さん?」

聞こえてないのかと名前を呼ぶと、大久保さんははっとしたように視線を外した。

「・・・流れに乗るぞ。まわりを見ろ」
「わあ・・・」

川辺が砂利になっていたのはさっきのところだけで、流れを下ると切り立った山肌に
両側を挟まれる。その斜面から紅葉の樹が生えていて、あまり広くない川幅にかぶさるように
鮮やかな紅が萌えていた。

「ほんとにきれい・・・こんな景色、今まで見たことないです。
 ・・・なんだかもったいないですね、こんなにすごいものを、わたしたちしか見てないなんて」
「川幅が狭いからな」
「え?」
「この狭さでは容易に川を遡れんのだ。帆が張れん以上、漕ぎ手をつけるしかないが、
 舟をつけられる場所がこう少なくては、戻すのに手間がかかり過ぎて商売にならんらしいな」

あ、なるほど・・・あれ、ってことは、この舟は?

「大久保さん、じゃあ、この舟、わざわざ用意させたんですか?」
「んんっ!・・・わたしが紅葉を見たかったのだ」

少し頬を赤くして、大久保さんが咳払いする。わたしの胸が温かいものに満ちた。

・・・もう、嘘ばっかり。
わたしのために、きっと用意してくれたんだ。

忙しいのに時間をつくって、舟を用意して。
最初に見る感動を損なわないように、駕籠に目隠しまでして。

――大好き、大久保さん。

「ありがとうございます」
「ふん、小娘は、ついでだ」
「はい」

川面を風が渡って髪をゆらし、頬をくすぐる。

「きれいですね・・・」
「そうだな」

こうして同じものを見て、同じように美しいと感じて。
ずっとこんな時が続けばいい。ずっと大久保さんとこうしていたい。
こんなしあわせが、ずっと続けばいい・・・

―もし。
もし、大久保さんが「帰るな」って言ってくれたら、わたし・・・

胸がぎゅうっと絞られるように、苦しくなった。

言って欲しい。帰るなって、言って欲しい。

「未来では」

思わず、そう言っていた。

「未来では、こんな見事な紅葉、見たことないです」
「・・・そうか」
「十六年も、向こうにいたのに、知りませんでした。わたし、大久保さんのおかげで・・・」
「帰りたいか?」

突然、大久保さんが、そう言った。
それは言って欲しかった言葉とよく似ていて、でも大きく違っていた。
わたしは息を飲んで大久保さんを見つめる。

――帰りたいか?

帰りたくないと言えば、大久保さんはそうしろって言ってくれるだろうか。
帰りたくないと、今、言えば・・・
震える唇で、息を吸う。

「か・・・」
「待っている者がいるのだろう」

遮るように、大久保さんが言った。
・・・お父さん、お母さん。カナちゃんも。
考えないようにしていたみんなの顔が次々と思い浮かんで、わたしは言葉を飲み込む。

「会いたいか」

それは、大久保さんの口からだけは聞きたくない言葉だった。
ずきっと重く、胸が痛む。
 
だって、会いたくないわけ、ない・・・
大切な家族も、大好きな友達も、会いたいかと言われれば、会いたい。

―――― なのに、帰りたくないなんて。

言えない。
もう、言えない。
言うのが怖い。
 
さっきまでの満たされた気持ちがまるで嘘だったみたいに、胸に穴が開いて風が吹く。

考えないようにしてたけど、ずっとわかってた。
帰りたくないと言うのは、十六年生きてきた世界を捨てる事。
大切な家族も大好きな友達も、いらないって切り捨てること。
なのに、わたしは帰りたくないと思ってしまっている。

わたしって、ひどい女の子だ。
家族に友達に、こんなにひどいことを思ってるのに、この期に及んでわたしが考えるのは
大久保さんの事で。

――こんな自分を大久保さんに知られたくない。
家族も友達も捨てるようなひどい女の子だと思われるのが怖い。

きっと、嫌われちゃう。
こんな情のない、打算的な女の子のこと、誰も好きなってくれるわけがない。
大久保さんが好きになってくれるわけ、ない。

・・・言えない。
帰りたくないなんて、絶対言えない・・・

目を合わせていられなくなって、わたしはうつむく。
そうだ、今までもずっと、大久保さんは帰れとも帰るなとも、決して言わなかった。
どっちでもいいから言ってくれればいいのに。そうすればわたしは迷わないのに。

帰れと言ってくれれば、わたしは泣くかもしれないけど、でもきっと帰る。
大久保さんがそういうのなら、諦めて帰るしかないんだもの。

もしかして、言わないのは・・・優しさなんだろうか。
帰った方がいいと思ってるけど、帰りたくないわたしを追い詰めないように言わないんだろうか。
大久保さんは大人で。
だから、わたしみたいな子供が自分で分別をつけて帰りますと言うのを
待ってくれているんだろうか。

うつむいた視界がじわりと涙でにじんだ。

「舟だな」
「え・・・」

顔を上げた拍子に、涙がぼろっとこぼれて、わたしは慌ててそれをぬぐった。
大久保さんは川上をじっと見つめていた。
視線を追うと、二艘の舟が遠目に見える。こちらの舟と違って櫂がついたその舟は、
ぐんぐん迫ってきていた。

「紅葉を見るための舟には見えんな」
「そう、ですね・・・」
「下手に動くなよ」
「え?」
「この舟に用があるようだ」

え?そうなの?

――ザザアッ!

漕ぎ手を含めて二人ずつ乗った二つの舟はどんどんと近づいてくると、
片方ははわたしたちを追い越してターンするように進路をふさぎ、
もう一隻はスピードを落として後方をふさいだ。
そして櫂を手放して先に金鉤のついた長い棒を取り出して構える。
明らかにわたしたちの舟を標的にした行動だ。

「ちっ」

大久保さんがわたしを庇うように、側に立った。

――ガガッ!

「きゃっ」

四本の金鉤が舟の縁にかけられて、その衝撃で舟が揺れた。
前後で固定されて成す術もなく、容易に助けも呼べない水の上で、
わたしたちは動きを封じられていた。

「何用だ。私が誰か知っての狼藉か」

大久保さんが凛として言った。
舟の上の四人は、どうみても町人・・・というか、ガラのわるいチンピラという風体だった。
大久保さんに関わりがあるとは、思えないけど・・・

「旦那に間違いはありまへん」

にやっと笑いながら、一人が言う。

「旦那ん護衛はやたら腕がたつちゅう噂やからな。
 こないなとこに舟を用意させてんやから逢引やろて用意しといて正解やったわ」
「ふん、無粋なことこの上ないな。何用だ」
「わしらはただの遣いや。一緒に来てもらいまっせ」

そう言って、男は何か細長いものを大久保さんに投げた。一瞬きらりと金属的な光が反射する。

なんだろう、簪、みたいだけど・・・

大久保さんはそれを受け取ると、手の中でじっと見てから顔を上げた。

「・・・私だけか」
「そやな。せやけど護衛に知らされても面倒や。
 旦那の御用が済むまで、お嬢ちゃんにはわしらの相手をしてもらいますわ」

その言葉に、男たちの中の1人が、ひひっと下品に笑った。

「・・・・・・」

ど、どうしよう・・・

わたしはおろおろと周りを見渡すしかできない。
ここは足場の悪い舟の上で、わたしたちの舟は小さい。
相手は帯刀してないとはいえ、長槍のような金鉤を持っている。腰に匕首もはさんであった。
大久保さんが刀を抜こうにも、状況があまりにも不利なことはわたしにもわかった。

ないと分かっていても、つい帯に手をやってしまう。
竹刀はともかく、短刀の一本ぐらい持ってくるんだった・・・

風が吹いたのか、すぐそばにせまった山肌の草むらが、ざざっと音を立てた。

「―待て」
「え?」

水面に大久保さんの静止の声が響く。

えっと、今の、誰に言ったの?

「待てと言われても、わしらも仕事やさかい引けへんえ」
「行ってもよいが、小娘は見逃してもらおう」
「え、大久保さん!」

こんな人たちに大人しくついてくの?

「問題ない。用があるのは昔の知己のようだからな」

え、知り合い?
でもこんなやり方で脅すような人のところに、大久保さん一人行かせられないよ!

「じゃあ、わたしも行きます!」
 
叫んだわたしを、大久保さんは完全に無視して男たちを睨む。

「この娘は、預かり者だ。私には無事に帰す義務がある。
 この娘を見逃すと約すのなら、大人しく付いて行こう」

――無事に帰す義務・・・

こんな時だというのに、そのセリフに身体が硬直した。
やっぱり、大久保さんはわたしを帰すつもりなんだ・・・。

「そうでなければ、大人しくとはいかんぞ」

大久保さんは刀の柄に手を掛けた。一瞬、男たちがひるんだのがわかる。

「お前たちは上流に向かうつもりなのだろう?
 私の護衛が待っているだろう下流に向かうはずはないからな。
 下流の舟着き場はかなり先。この舟が流れて小娘が護衛に助けを求める頃には、
 すでにお前たちは身を隠すことができていよう」
 
どうだ、というように大久保さんは男たちを見渡した。男たちが目くばせをしあう。

「異論はあるまい」

その言葉に、わたしははっとする。フリーズしてる場合じゃないっ!

「異議あり!」
「小娘・・・黙っておらんか」

げんなりとした顔で、大久保さんがわたしを見た。

「こんな奴らにひとりでついてくなんて、とんでもないですっ!
 わたしは大丈夫です、これでも道場の娘ですから!」
「・・・どうだ、この娘は手がかかるぞ」

大久保さんはわたしの言葉を完全に無視して、男たちを見渡すとにやりと笑った。

「―ええやろ。その代わり、事が済んだ後もわしらのことは不問にしてもらいまっせ」
「約束しよう」
「ちょっと、大久保さんっ」

なおも反対しようと声を上げると、大久保さんがわたしを静かな目で見た。

、静かにしてろ」
「えっ」

いつも小娘と呼ばれるので、名前を呼ばれるのは珍しくてどきっとする。

「帯締めを借りるぞ」
「えっ、あの」

大久保さんはわたしの帯に手をまわすと、手早く帯締めをほどいた。

「手を出せ。両手だ」
「あ、はい・・・」

何が何だかわからないけど、つい、言われるままに両手をだす。
すると大久保さんは、わたしの手首をそろえるようにしてから帯締めをぐるぐると巻き始めた。

「えっ!?」

反射的に逃げようと手を引くけれど、しっかりと掴まれていてびくともしない。

「ちょ、大久保さんっ!なんですか、これっ!」
「こうでもせねば、泳いででもついてきそうだからな」

だ、だからって縛る?

「ほどいてくださいっ!」
「だめだ」

撒き終えた帯締めの端を、手首の下できつく結ぶ。

「いたっ」
「・・・半次郎にほどいてもらえ」
「大久保さんっ」

わたしの手を縛り終えた大久保さんは、舟の上でスッと立ち上がって男たちを見回し
「案内しろ」と短く言う。促されるままに川上の方の舟に乗り込んだ。

ほんとにこれ、連れてかれちゃう・・・!

「大久保さん!わたしも行きますってば!」

うう、でも不安定な舟の上では手が使えないと立ち上がることもできない。
大久保さんはまるでわたしの声が聞こえていないように、静かに男たちに話しかけた。

時間を置けば置くほど下流に近づくぞ」

「さすがお武家はん、冷静やな。ほな、腰のもん預かりますわ」
「当然だな」

大久保さんが腰から抜いた長刀と脇差を、男のひとりが受け取る。
川下でこちらの舟の動きを封じていた一艘が、櫂を繰って川を上り始めた。
大久保さんの乗った舟とすれ違いざまに、手を伸ばして刀を受け取る。

「ふ、なかなか用心深い」

むしろのんびりと、大久保さんが言った。

「大久保さん・・・っ」

男たちは、騒ぐわたしに目もくれず、大久保さんを乗せて川上へと漕ぎ出した。
こちらの舟は、ゆるやかに川を下って、わたしと大久保さんの間は、ぐんぐん離れていく。
川は曲がりくねっていて、すぐに舟は紅葉に隠れて見えなくなった。

連れて行かれちゃった・・・どうしよう!

「くっ」
舟の縁に手をかけて、力を入れる。立ち上がろうと体重をかけると、ぐらっと舟が横揺れた。
や、やっぱりだめだ・・・どうしよう、半次郎さんのいるところに着くまで、どれくらいかかるんだろう。
せめてせめて、できるだけ早く下流に・・・!

「――お嬢さあ!」
「えっ」

一瞬、空耳かと思った。声がした方を見上げると、
川を望む山肌の崖の上の草むらがザザッとざわめいて、黒い影が飛び出してきた。

「ええっ!?」

――ダンッ!


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【ハイ、ここまででごめんなさい!w この先はまだまだ長いよ!】

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『もみじ廻りて』
 大久保二次小説、君シリーズを一冊にまとめました!
 書下ろしの長編は大久保さんと小娘ちゃんがステキな関係になる前のお話・・・
もみじ.png

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 イラ絵師:大和、むっつー、瀧本阿南、陽世ひよ、るりるり、おれんじぺこ、海翔龍刃、ふじ
 小説文師:のにー、瀧本阿南、鉄線蓮、海翔龍刃、ふじ
 漫画絵師:るりるり、陽世ひよ、海翔龍刃、ふじ
夏の陣.png

『幕恋万華鏡』
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 イラ絵師:瀧本阿南、おれんじぺこ、ままりん、るりるり、ふじ
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万華鏡.jpg

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サークル恋愛遊戯を、よろしくお願いします!


posted by ふじ at 20:53| Comment(11) | 君シリーズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
続きが見たい! 
ふじさんに個人的にお願いしてもいいんでしょうか?
こないだと同じ振込先でいいのならそのようにしますが。
Posted by kamikakusi at 2014年10月10日 19:23
>kamikakusiさん
こんばんは!
そう言っていただけるとうれしいです!
個人的にオッケです!前回と同じ振込先でオッケですし、データもとってあるので、送り先が同じでよければそのようにいたします〜!
お値段は、本代500円と送料150円で650円になります!
Posted by ふじ at 2014年10月10日 23:16
了解しました。
連休明けにも郵便局行ってきます。
Posted by kamikakusi at 2014年10月11日 09:01
きたーっっっ(≧▽≦)!
お待ち申し上げておりました!
こちらもたまにupお願いします。
Posted by nattsu at 2014年10月11日 22:01
ふじさぁぁん、待ってました(*´▽`*)
ぜひ個人的にお分けいただきたいっ!
どうすればよいのでしょうか?
Posted by みぃ at 2014年10月12日 11:40
>kamikakusiさん
ありがとうございます!
確認させていただきましたら、発送いたします!

>nattsuさん
待っててくださってありがとうございます!
途中までですみませんw

>みぃさん
おお!ご興味を持って頂いてうれしいです!
それでは、連絡先を書きこんでいただくためのページをアップしますね!
コメントを非公開に設定するので、そちらにお願いいたします!
Posted by ふじ at 2014年10月13日 19:59
>kamikakusiさん
お支払ありがとうございます!確認いたしました。
お送りいたしますのでよろしくです!
Posted by ふじ at 2014年10月15日 16:42
届きました〜!
ありがとうございます。
さっそく すべての外部を遮断して
ふじさんワールドに没頭したいと思います。
これからも よろしくお願いします。
Posted by kamikakusi at 2014年10月18日 13:39
ふじさぁぁん!
届きましたっ! 読みましたっ!
最高っス!(*^^)v
お話の続きが読めたことと、幕恋でのきゅぼ様√の不満が解消された気分です。
「これだよっ、これ、これっ!」と叫びたい。
ああ、きゅぼ様に「馬鹿者」と言われたい( *´艸`)
はんじーもいい味だしてます♪
そしてっ、本も最高ですぅ
きゅぼ様のお話と絵が1冊にまとまって、私の宝物になりました。
お分けいただき本当にありがとうございました。
これからもこっそり応援してます!
Posted by みぃ at 2014年10月19日 13:19
>kamikakusiさん、みぃさん、ありがとうございます!
実はただ今パソコンが反乱中で、アクセスできる時間がほとんどないのですううう!
そしてメールも読めない状況に!すいません!
こちらで到着のお知らせをいただいて、本当によかった!
幕恋でのきゅぼさまルートの不満、わかりますわかります!だからコレを書いたようなもんです!www
きゅぼ様に馬鹿者って言われたいですよね!仲間ですね、みぃさんww
お読みくださって本当にありがとうございました!
これから読んでくださるkamikakusiさんも、お手にしていただいてありがとうございます!

私は明日パソコンを買いに行きます!
はやく明日になれ〜!
Posted by ふじ at 2014年10月20日 08:50
新しいパソコンに四苦八苦しておりましたが、
なんとかメール設定もできました。
お問い合わせくださったみなさま、対応が遅れて申し訳ありませんでした!
そして興味をもってくださって、うれしいです!
ありがとうございます!
Posted by ふじ at 2014年10月29日 21:09
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