2013年09月29日

月にさざめく(後編)

中編の続きです。

後編、てんてー祭にギリッギリ間に合いました!
23時55分くらいに日記にアップww 何とかなったのが奇跡みたい!
その後、絵茶のお部屋に飛び込んで、思う存分しゃべり・・・のはずが寝落ちしてたらしくww
先ほど起きました。そしたら画面に!寝落ちした私に愛のメッセージとてんてー絵
描かれていて、めっちゃくちゃびっくり!みんなありがとおおおお!
絵茶終えたらこちらにアップしようと思ってたのに、寝落ちして朝になってしまってすいませんww
後編です!お待たせしないでよかった!
こんなにがんばれたのは、お話の続きを待ってくださってるみなさまのおかげです!ほんとに!
今回も長いですが、どうぞ読んでやってくださいませ!
ありがとうございました!

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月にさざめく(後編)                       幕恋創作小説:武市ルート
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走り去るの後姿を、僕は何もできずに見つめていた。
また、泣かせてしまった・・・。

酔った男ががに邪に触れてるのを見て、頭に血が上った。
相手はただの酔っ払いだ。どうにでも上手くあしらうことはできたはずなのに。
あんな男に触れられていながら警戒心のないの顔がひどく腹立たしくて
激昂する己を抑えるので精一杯だった・・・

不安な眼をする彼女が思い起こされる。
今触れたら、たおやかな彼女を激しい情動で抱きつぶしてしまいそうで、それが怖かった。

「酷では・・・ございませんやろか」

突然、目の前から声がして、自分が道代さんを抱え上げてることを思い出した。

「失礼。なにかおっしゃいましたか?」
「誰ぞ呼んで来はったらよろしおすのに。あないにかわいいお人がおるんに、目の前で
 他のおなご抱きかかえはったら、あきまへんえ」
「・・・あなたには関係ありません」
「関係はありますやろ。うちのせいやし」

・・・桂さんの後ろに控えていた時とは、だいぶ違う物言いだ。

「あなたは・・・武家のご妻女には見えませんね」
「あら、ばれてしもた。うちは女郎あがりどす」

ああ・・・。確かに桂さんは、ご妻女とは言わず、世話をしていた者と言っていた。
髪型を武家の女性風にやつしているのは、旅籠に滞在する上で必要だと思ったからか。

「しょうもない局見世どすけどな。やっと身請けされたと思ったら、置いてかれてしもて」
「・・・あなたはこれからどうするのですか」

子供を抱えて、おなご一人、どうやって生きていくのだろう。

「本妻はんが、ややを欲しごうとるそうや。
 うちが産みさえすれば、この子は生きていけますやろ」

やはり里子に・・・

「辛くは、ありませんか?」

子は生きていけても、残された妻はどうなのだ。
その可能性を考えるだけで、胸が痛んだ。

「殿方は、ほんにか弱うて、かわいおすなあ」

・・・は?
今なんと言ったのだ?
弱い?それは僕のことか?

ここは花街ではないのに、こんな物言いを夫君は許していたというのか。

「おなごは強うおすえ。あの人が亡うなったって、この子のために生きていかんとあかん。
 生きてさえいれば、いつかどこかでこの子とも会えますやろ。辛い辛いゆうてる暇なんぞ
 これっぽっちもあらしまへんえ」
「彼女はあなたとは違う」
「そうどすな。あのお嬢さんの方が、よっぽど肝がすわってはるわ」

・・・たしかに、度胸はあるが。
客人の部屋について、畳の上に身重の体をゆっくりとおろす。

「女将を呼びます」
「いえ、ずいぶん楽うなりました。それにはおよびまへんえ」
「そうですか。ならばお大事に」

長話をするつもりはない、僕は早々に退出しようと、踵を返した。

「お武家様」

・・・まだなにかあるのか。

「何ですか」
「老婆心から一つだけ。惚れたおなごに、あないな子ども扱いはあきまへんえ」

―――!

痛いとこを突かれて、苦い思いがこみあげる。
だが・・・

「あなたに何がわかる」

僕だって、彼女を子供だと思っているわけではない。
だが、そうでも口に出さないと、己が抑えられない。

いらだちを振り切るように、僕は乱暴に障子を閉めた。


先ほどの酔客のところに戻ると、ちょうど女将がその前で思案中だった。

「女将」
「・・・先生。何があったんか、だいたい想像つくけんど・・・」
「・・・・・・」

ばれている。
言い訳する必要はなさそうだ。

「後片付けをお願いできますか?」
「も少し手加減しておくれやす。この様子では朝まで起きまへんえ」

・・・つい力が入ってしまったことまで、ばれている。
そらっとぼけてみるか。

「・・・酔いとは怖いものですね」
「よう言いますわ」

この女将なら、うまいこと目覚めた男を言いくるめてくれるだろう。
裏玄関の方から、聞きなれた人声がしてきた。
どうやら全員帰ってきたようだな。

「荷運びは以蔵に言ってください」
「へぇ、おおきに」

龍馬たちに根掘り葉掘り聞かれるのも面倒なので、早々にその場を後にする。
以蔵の「先生、ただ今戻りました!」という声が追いかけてきたが、当然のことく無視した。



部屋へ戻って、障子を閉めて、隣室の気配を探る。
異様なほどにひっそりとしているが、隠しようもない彼女の気配が、こちらに向いているのが
感じられた。
部屋を出歩いていないことに、まず安堵して息をつく。
僕は部屋の境の襖に触れた。

衣擦れの足音が少ししたせいか、襖の向こうが緊張するのを感じた。


・・・大丈夫、開けないよ。


彼女の気配に近づきたくて、襖に額を付ける。
目をとじると、彼女の姿が見えるような気がした。
開けないから、しばらく・・・こうさせていて欲しい。
君の息遣い、衣擦れの音、かすかに逸る鼓動まで・・・
僕だけのものにしたいから。

遠い喧騒が、さらに遠ざかる。
夜の静寂がくっきりと色を増して、まるでこの世に僕と彼女の二人だけのようだ。


きっと今夜は眠れない。


僕はいつまでも、そこに立ち続けた。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「・・・はぁ〜・・・っ」

うう、昨夜はほとんど寝れなかった・・・。
だ、だって・・・武市さんが、襖をあけちゃうかと思って・・・
でも気のせいかなあ。普通そんなに長く、襖の前に立たないよね?
自意識過剰かな・・・

・・・そうに決まってるか。
そもそもわたし、武市さんに子供だって言われたんだっけ・・・
そりゃ、大人じゃないかもしれないけど!
・・・お酒も飲めないけど。

・・・・・・。

・・・プロポーズ、したくせに。
子供だと思ってるのなら、しないでよ!
武市さんの、バカ!
今日寝不足なのは、武市さんのせいなんだからね!


うつらうつらしては、武市さんが襖をあける夢をみたりして・・・その度に起きて。
・・・もう夢なのか現実なのかわかんない。
なんか疲れた・・・


「なんだ、眠そうだな」

庭を掃除していたわたしに、以蔵が声をかけた。
木刀を何本か持っている。

「・・・それで掃除をしているつもりか?」

言われて足元を見ると、掃き清めていたつもりが、どう見てもはき散らかしてる状態だった。
あわてて、箒の先に意識を向ける。

「稽古するから、近づくなよ」
「うん」

以蔵は木刀を二本まとめて持つと、素振りを始めた。
ビュッ!ビュッ!と、重い風切音がリズムを生む。
握りにくい二本もちでも、剣先がわずかもブレない素振りをみていると、わたしは少し落ち着いてきた。
昔から道場に出入りしてたせいか、こういう光景が安心するのかもしれない。

「・・・ねえ、以蔵。以蔵は武市さんの弟子だよね」
「そうだ。先生の弟子であることは、俺の誇りだ」

そ、そこまでは聞いてないんだけど。

「・・・やっぱり以蔵も、子ども扱いとか、された?」
「子ども扱い?」
「ほら、武市さんは大人だから、以蔵のこと、軽くあしらってるじゃない?」
「おま・・・っ!」

以蔵の素振りが乱れる。

「軽くとか言うな!先生の成すことは全て、深いお考えがあってのことだ!」

うーん・・・そうじゃなくて。

「子ども扱いされることに、以蔵は不満ないの?」
「俺は子ども扱いなんぞ、されとらん!」
「え、そう?」
「そうだ!」

「――聞き捨てならないっス」

いつの間にか、慎ちゃんが後ろに立っていた。

「あ、慎ちゃんいたんだ」
「・・・姉さん、それはないっス」
「慎太は最初からいたぞ」
「え、ごめん・・・見え・・・」
「姉さん!今、見えなくてって言ったっスか!?」

き、禁句だった・・・

「い、言ってないよ」
「まあ、いいっス。それより!」

慎ちゃんが、身を乗り出した。

「武市さんに、子ども扱いされたんスか!?姉さん」
「えっ!いや、その・・・」
「あんだけ姉さんのこと独り占めしといて、それはないっス!」
「独り占めって・・・あはは」

なんて言ったらいいかわかんなくて、笑ってごまかす。

「そういえば、昨日の男・・・」
「え?」
「そうか、姉さんがあの男にからまれたところを、武市さんがのして」
「う」
「そしてさしずめ『子供が酔った男の前ををふらふらするな!』とか
 叱られたってとこっスね」

いや、叱られてはない、よね?
わたしも叱られるとは思ったけど。

「あれ、ちがうっスか?」
「ち、ちがうもん」
「カンが鈍ったっスかね・・・」

あんまり鈍ってないです・・・

「姉さん、でもとにかく武市さんに子供扱いされたんでしょう?」
「う、うん」
「じゃあ、少しこらしめてやるのがいいっス!」

ええ!?
こ、こらしめるって・・・どうやって?

「実は昨日、会合で粘ったかいがあって、上手いこと話が進んだんスよ。
 だから今日はちょっとしたお祝いをしようってことになって。丁度月も満月ですし、
 月見の宴ってことで夕餉は鳥鍋で酒宴っス!」

「へえ、おめでとう!でも・・・こらしめるって何するの?」
「姉さんは、女将に相談して、綺麗な恰好してください」
「へ?」

綺麗な恰好?なにそれ。

「着物と、化粧っすね。なんなら髪結いも」
「ええ!?いや、それって意味あるの?」
「充分あるっス!姉さんがそうすれば、絶対子供だなんて言えないっスよ!」

つまりオシャレして、子供じゃないって認めてもらおう大作戦・・・?
だ、大丈夫かな・・・
あんまり自信、ないけど・・・

「さあ、そうと決まれば、女将に相談っス!」
「ええ!?わたし、まだやるなんて・・・」
「いいからほら!オレは姉さんの綺麗な姿、見たいっス。以蔵君もそうだよね?」
「俺は別に・・・」
「乗ってよ、そこは!」

慎ちゃんに背中を押されてお登勢さんのところに行くと、話を聞いたお登勢さんは、
急に眼をキラキラさせて、身を乗り出した。

なんか、こわい予感が・・・
でも、もう逃げ場が、ないかも・・・。




お風呂に入って、髪を洗って、髪結いさんが来て。
一度結ってもらったことがあるけど、今回はちょっと違う髪型にするそうで、
なんだか時間がかかった。

「乙女島田え」
「おとめ・・・」
「いいとこのお嬢さん風、やな」
「ええっ!?大丈夫ですか?わたし・・・」
「大丈夫も何も、よう似合うてるえ」

髪を結い上がる頃に、お登勢さんがたくさんの簪を持ってくる。

「ちょ、こんなに、どうしたんですか!?」
「知り合いの置屋に、ちょっと借りたん」
「借りた!?」
「そや。まあだから、どれも使い古しやけどな。」
「それはいいんですけど・・・」

白菊を模した花飾りにたくさんの短冊みたいな切片がついてる
簪を、お登勢さんは選んだ。
揺れるたびに光を反射して、きらきらとざわめく。

「そ、そんな派手なの、するんですか?」
「そや。まかしときって」

うう。
なんか、完全にお人形さん状態じゃない?
もうどうにでもしてクダサイ・・・

白粉をうすーく塗って。着物を着て。
白にピンクの菊柄の着物は、華やかででかわいらしかった。
最期に紅を唇に乗せて、やっと全部終わったらしい。

お登勢さんが私の全身を眺めて、満足そうにうなずいた。

「ほな、おきばりやっしゃ」

何をきばれと・・・
昨日『子供に酌なぞさせても』って言われたばかりなのに。

浮かない顔をしてるわたしに、お登勢さんが口をひらいた。

「なんや、気が進まんの?」
「・・・武市さん、怒らないでしょうか」
「なんで怒るの。喜ぶに決まってるやない」
「だって・・・昨日、わたしのこと、子供だって」

お登勢さんが、目を丸くした。

「子供に酌なぞさせてもつまらないでしょう、って・・・」

小さな声でそう言うと、お登勢さんが心得たように、笑った。

ちゃん、それはあれやろ?例の酔いどれたお客に言うたんやろ?」
「はい」
「建前に決まってるやないの!」
「そう・・・なんでしょうか」
「そうや。ちゃん、前に言うたろ?」

お登勢さんは、わたしの顔をのぞきこむようにした。

「わからんことは、訊いたらえええ、言いたいことは、言うたらええって」
「・・・はい」
ちゃんが子ども扱いが嫌やったら、それを言わんとあかん。
 何にも言わんと、うまくいくことなんか、そうそうないんえ」

・・・そうか。
わたし、言えばよかったのかな。
子ども扱いしないでください、わたし以外の女の人を触らないでくださいって。

「先生に言うてやりよし。先生はちょおーっと思い込みが激しおすかんな」
「え?そうですか?」
「そうや!筋金入りえ」

そう・・・かな。
でも、お登勢さんと話してたら、なんだか武市さんと話せるような気がしてきた。

「わたし、頑張ります」
「おきばりやっしゃ」

お登勢さんが、勇気をくれるみたいに、にっこりと笑った。




「あの。です、失礼します」

みんなの酒宴はもう始まっていたので、座敷の外から声をかけて、襖をあけた。
とたんに龍馬さんが歓声をあげる。

「おお!、美しいのう。待っとったぜよ」
「姉さん、すごく綺麗っスよ」
「あ、ありがとう・・・」

そう答えてから、ドキドキしながら、武市さんと以蔵の方を見ると、二人とも全く同じ格好をしていた。
盃を膝の上に落して、目を丸くしてわたしを見ている。

「・・・さすが師弟っスね」
「間抜け面まで一緒だの」

慎ちゃんと龍馬さんの会話に、わたしの緊張が一気に解ける。
それに・・・武市さんの顔が、たぶん・・・いい意味でびっくりしてくれてるってわかったから。
気に入ってくれた・・・ってことだよね?

なんだか私は楽しくなってきた。

「姉さん、間抜け面師弟はほっといていいっスから、オレに注いでください」
「ずるいぞ中岡、わしが先じゃ!」
「おれが先っス!」

軽い言い争いに、武市さんがはっと我に返ったようだった。

「中岡、龍馬。に酌など・・・」
「お酌くらいしますよ。でも、まずは武市さんに」
「・・・・・・」

武市さんが、黙った。
簪をかちゃかちゃ鳴らさないように、そっと歩いて武市さんの側に座る。
膝に落ちていた盃をひろって、こぼれたお酒を手巾でふくと、武市さんに渡した。
徳利を取り上げて、少しだけ傾ける。

少しだけ手が震えて、徳利と盃がぶつかって、カチカチと音を立てた。

「どうぞ、武市さん」
「・・・・・・」

お酒の注ぎ口に集中してた目線を上げると、熱っぽい視線に
ぶつかった。
吸い込まれそうな瞳にくぎ付けになる。
武市さんの唇が、何かを言いたげにわずかに開いた。

たけち、さん・・・

「うおおおおっせんせえ〜っ!」

突然、大声で以蔵が泣きだして、心臓が飛び上がるほど驚く。

「以蔵くんっ!なんでここで泣きだすんスか!」
「うおおおん、わしは、わしは先生を尊敬申し上げてるんじゃあああ」
「いや知ってるから!」
「厄介な泣き上戸がはじまってしまったのう・・・」

「先生は、先生は、わしの宝じゃああ」
「それも知ってるっス!」
「耳にタコじゃの・・・」

うわ、びっくりした。
そう言えば以蔵って泣き上戸だっけ・・・

その時、武市さんが何も言わずに立ち上がった。

え?

「武市、どこに行くんじゃ」
「・・・酒はもういい。少し風に当たってくる」
「まっこと情けない男じゃの」

え、情けない?
龍馬さんの言葉の意味が分からなくて、武市さんの顔を見ると
武市さんは視線をさけるように顔をそむけた。

そして、何も言わずに部屋を出て行った。

な、なんで・・・
やっぱり、わたしが子供だから?
呆然としてると、慎ちゃんが近づいてきた。手に盃を持っている。

「姉さんは悪くないっスよ、武市さんが情けないだけっス!」

どうしたら、武市さんに大人って思ってもらえるの?
どうしたら・・・

「・・・慎ちゃん」
「はいっス」
「それ、ちょうだい」
「え?どれっスか?」
「それ」

そう言うと、わたしは慎ちゃんの盃を奪い取った。
そのまま口をつけて、くいっとあおる。

―――うわっ!!

なにこれ、変な味!
喉の奥がカッと熱くなる。
こ、こんなのがおいしいの!?

「ね、姉さん!」
「も、もっとちょうだい!」
「駄目っすよ、今日の酒はけっこう強い方で・・・」
「そう?全然大丈夫だよ、わたしけっこう強いのかなあ」

そう言って、自分で徳利に手を伸ばす。

「ああっ姉さん!」

なみなみと注いで、口に入れた。

「だいじょぶ、らいじょぶ・・・」

あれ?
なんか、口が・・・
ああ・・・慎ちゃんが・・・ぐるぐる、してる・・・・・・なに・・・してるんだろ・・・


☆ ☆ ☆ ☆ ☆

中庭に出て、僕は頭を冷やしていた。
なのに考えるのはのことばかりで、頭なんぞまったく冷えてくれない。

潤んだ瞳。
いつもより露わになったうなじ。
簪が反射するチラチラとした光さえ、僕を誘うようで。

「まいったな・・・」

月を見上げる。
雲一つない夜空に、ぽっかりと丸い、煌々と輝くそれを。
せめて闇夜であったなら、己の情欲も見ぬ振りができただろうに。

・・・これでは戻れない。
また、井戸の水でも浴びれば、少しは冷えるだろうか。

そう思って井戸の方へ向かおうとした時、ばたばたと足音が聞こえた。

「あ、武市さん!」
「中岡か。どうかしたか」
「あの、すいませんっス」
「・・・なにが」
「姉さんが・・・」

が!?
まさか・・・龍馬か以蔵が・・・のあまりの可愛らしさに!?

に何を・・・っ!」
「酔っぱらっちゃったっス・・・」

よっぱらった!?

「・・・飲ませたのか」
「面目ないっス・・・」

いや、中岡がに酒を勧めたとは思えない。
大方、が勝手に飲んだのだろう。

「それでは・・・」
「ばたんと倒れて、寝ちゃったっス」
「・・・・・・」

初めて飲んだのだから、効くだろうが、いきなり倒れるとは・・・
一体、どんな飲み方をしたんだ。

中岡を連れて座敷に戻ると、さっきまで僕が座ってたあたりに横になったがいた。
酒をこぼしたのを中岡が拭いたのか、白粉はだいぶ取れている。
少し赤い顔をして、すやすやと眠っていた。

部屋の隅には以蔵が、泣きながら手酌で酒を飲んでいて、先生がどうのとか聞こえたが、僕は黙殺した。
龍馬は自分の膳の前に座って、こちらも手酌で酒を飲みながらの寝姿を見やっている。

「・・・龍馬」
「なんじゃ」
「見るな」

ちらりと龍馬が視線をこちらに向けた。

「見られて困るもんを、置いてくな、ど阿呆」

・・・返す言葉もない。

僕はの側に、かがみこんだ。
・・・完全に眠っているな。
腕を背中とひざ裏に通して、抱え上げる。

「酒宴を続けてくれ。僕はを寝かせてくる」

龍馬が酒をあおりながら、ひらひらと左手を振った。
中岡は畳にこぼれていた酒を、手拭いを出して拭きはじめる。
僕はそれを横目で見て、を抱えて座敷を出た。



部屋に着くと、行灯の灯りの中に、布団がすでに敷かれているのが見えた。
一瞬、邪な考えが頭をよぎって、足が止まる。

いや、酔に付け込む真似は・・・いやちがう、それ以前の問題だ。
彼女はまだ子供だ。

とにかく寝かせて、酒宴に戻ってしまうに限る。
敷かれた布団に、を横たわらせた。
簪がしゃらん、と音を立てる。

「・・・さすがに帯が苦しいだろうな。女将を呼んでくるか」

つぶやいて、部屋を出ようとすると、背後でか細い声がした。

「行かないでください・・・」

せつない響きに、僕は足を止めた。
だが、理性を保つ自信はとうにない。
彼女はまだ子供なのに。

「どこにも行かないよ。女将を呼んでくるだけだ」
「行っちゃ嫌です・・・」

だだをこねるように、彼女が言う。
僕はすでにその響きに屈服していた。
彼女に、近づく。

・・・」
「・・・わたし、もう子供じゃありません」
「・・・え?」
「子ども扱い、しないでください・・・」

重ねて言うその言葉に、僕は・・・

「・・・未来では、行かないんです」
「・・・どこに?」
「・・・・・・・・・つき、ごや・・・に・・・」

・・・そうか。そうだったのか。

「・・・女将に・・・何か、訊いた?」

こくん、とが頷く。簪がまた鳴った。

「武市さんが、誤解してるって・・・」
「・・・ごめん」

しかし、口に出さなかったのに、女将には何もかもわかってしまっていたのか。
本当に敵わない。

「・・・。君は今、酔ってる。酔に付け込むようなことは・・・」
「酔ってません・・・」

酒がまわってないはずはないだろう。
だがそれでも、酔ってないと言い張る彼女が、この上なく僕の恋情を甘く誘った。

髪を撫でる。
菊の形の簪を、僕は抜いて畳に置いた。
しゃらん、とそれは一度音を立てて、あとは沈黙する。
僕らの邪魔をしないように、黙る。

桂さんの忠告を忘れたわけではない。
だが、これほどまでに可愛らしい恋しい人を、誰が放って出て行けるものか。

僕は横になったに覆いかぶさるように、唇を寄せた。
触れた瞬間、がぴくりと震える。
そのわずかな仕草すら、恋しくてたまらない。
僕は花びらを開くように、唇を落とし続けた。

「きもちいい・・・です・・・」
「・・・今日は・・・ずいぶん素直だね」
「そう・・・ですか・・・?」
「そうだよ・・・」

口付けの合間に漏れる言の葉さえも、恋しい。
僕はさらに首筋から胸元へとおりて、柔らかなそれを確かめ・・・

「――?」

突然、の手がぱたんと布団に倒れた。
意識を失ったような仕草に、驚いて顔を上げる。
は―――

くうくうと寝息を立てて、眠っていた。



・・・・・・寝ている。完全に。

・・・・・・口づけの途中で。
・・・・・・これから・・・


「―――ぷっ」


落胆よりも先に、吹き出していた。

「はははっ!
 こら、誰が・・・子供じゃないって?」

すやすやと眠るの頬をむにっとつまんだ。
起きる気配すらない。

「大人になったかと思えば・・・やっぱりまだ子供だな」

聞かれたら、怒られてしまうだろうけど。
寝ている君が悪いのだから、少しくらい言ったっていいだろう。


無防備に眠る彼女の顔を、ただ眺める。
一晩中見てても、飽きない気がした。


―――不思議だ。
あんなに荒れ狂っていた情欲が、今こんなにも凪いでいる。
欲望が放つ焦燥感よりも、恋しさと幸福感が、僕を包んでいた。

こんな幸福があるなんて、君がいなければ絶対に知らなかった。


めまいがするほどの激しい恋情も、情欲も
それを超えたところにある、幸福感も。

何もかも、君が教えてくれる。

君だけが、僕の心を解き放って、くれるんだ。

この世でただ一人、君だけが。


「おやすみ、


僕は行燈の灯りを吹き消すと、闇の中での隣にごろんと横になった。


今夜はこのまま君の寝顔に寄り添って

君の夢を見ることにするよ。

眠れなかったら月が話し相手になってくれる。

僕は君への想いをありったけ、月に話そう。




月が照れて、隠れるまで・・・



<おしまい>


posted by ふじ at 08:00| Comment(12) | 連作長編―武市 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ふじさ〜ん、最後良かった・・・せんせー月に想いを話すなんて・・・趣がある〜!ステキ!!やっぱりせんせーは子ども扱いと言うより自分の感情を押し殺すために言ったことだったんだ〜もうせんせー大好き!!ふじさんのせんせーを大事にしてるって感じが伝わってきました。4ヶ月ぶりのチューか〜今回はもっと進むと思ったんだけどな〜えへへ。とっても良かったです!!!
Posted by まき at 2013年09月29日 12:00
どうしましょう・・
こっちがテレテレです・恥

いいなぁ・・
ふじさん作の こんな時間を 共有できて幸せです。

ギャラリーも 本当に温かくて 小娘ちゃんは過去に飛ばされてつらい部分はあるでしょうけど
・・静かに見守りたいですね。
Posted by みなみ at 2013年09月29日 12:03
後編もしっかり楽しんじゃいました。
もう胸がキュンキュンしっぱなし。もう少し大人のお話になるのかなと期待半分、でも、小娘ちゃんだし、こんなもんかなとも。
先生の小娘ちゃんへの大きな愛を感じました。
次のお話も期待してます。
Posted by ツインパール at 2013年09月29日 16:06
お疲れ様でしたー。
怒涛のアップでしたよね。PC前で寝落ちしちゃうはずですよー。涼しくなってきましたが寝冷えとか大丈夫でしたか?熱出しても平気で出社なさる方なので心配ですう。

小娘ちゃんの部屋との仕切りにたたずむせんせー。小娘ちゃんが恋しいのに自分Mだからそばにいけない。
杯を取り落としちゃうくらい小娘ちゃんのことが好きなせんせー。

せんせーの小娘ちゃんを愛しいと思う気持ちをあらわす表現は、ふじさんの書く文章がピカイチ(←古い)だと思います。

どれほど好きなのか、どんな風に思っているのか、せんせーが思っている気持ちを書き表すだけでなく動作や行動で見せてくださるのでとても説得力があるし、心の動きが腑に落ちます。

これが表現力というものなんだなあと。
今回のお話を読んでつくづくと感じました。
すごく読み応えのあるお話でした。
ありがとうございました。
Posted by 茶々 at 2013年09月29日 16:13
ふじさん、たびたびすみません。さっき、書いた私のコメント消しといていただけますか?
あれがダメな娘さんたちに申し訳ないので、
お手数おかけしてすみません。
ふじさんの世界観は本当に大好きです。
しばしひたって余韻を楽しんでいます。
Posted by kamikakusi at 2013年09月29日 20:44
ふじさん!ご馳走様でした!!
そしてお疲れ様でした!!
久しぶりに「先生」に会えた気分(#^.^#)
読んでてなんか照れました(笑)
先生萌えの上に幕末の文化もお勉強できるなんてふじさんの小説は教科書にもできそうですよ!(一部教科書向きじゃないけど)素敵なお話、ありがとうございました^^
Posted by sakuya at 2013年09月29日 23:34
すっごいドキドキしちゃいました♪
結局おあずけだったけど。でも、小娘ちゃんを想う先生の愛の大きさがほんとうに伝わってきて、幸せな気持ちになれました。
寺田屋メンバーもほんとに素敵♪
ありがとうございました^^
Posted by momo at 2013年09月30日 16:25
>まきさん
良かったですか!ありがとうございます!
月に想いを話す、キーボードを打つその瞬間までそんなこと考えてなかったんですがww
筆の滑りってスゴいですww
打ってると思いもしなかった文をいれちゃったりするのですww
てんてーは一途で不器用で純粋で、だからこそめんどくさいというかww
大好きなとこです!
4か月ぶりのチューですねww
なのに寝落ちww てんてー不憫だわあww


>みなみさん
テレさせちゃってごめんなんし!
今回は二人の心の動きがメインなんで、事件らしい事件が起こってないので、どうかなあ、と思ったのですが・・・あ、それでハゲおやじ出したんだっけww
皆様に受け入れていただけてうれしいです!
うちのてんてーと小娘ちゃんは、ほんとにノロマで亀の歩みなので、まわりのフォローが必須ですww
これでまわりがライバルばっかだったら、たぶんてんてー、幸せになれないww
見守ってくださってありがとう!


>ツインパールさん
楽しんでいただいてありがとうございます!
大人展開を期待させるような書きかたしましたwwすいませんww
でもやっぱり、寝落ちで添い寝は外せねえ!
あそこで手を出さないのが、てんてーだと思うのです。
それも我慢じゃなくて、幸せすら感じちゃうというww
てんてーならきっとそう!←思い込み
次もお待ちいただいてうれしいです!がんばります!


>茶々さん
怒涛のアップでしたww
まさか天帝祭に間に合うとは。びっくら仰天ですww
身体の心配までありがとうございますううう!
すいません、実はずっと熱があるみたいですww
家にいる間はずっと冷えピタ族!でも元気なんでご心配なく!
襖の前で佇むてんてーは私的に萌えポイントでしたww
通じるかな〜、と思って心配でしたが、わかっていただけてよかった!
茶々さんにそんなに褒めていただけて、もううれしい!
ピカイチとか、額に入れて飾っておきたい!ww
読んでくれてありがとです!


>kamikakusiさん
一応消させていただきました!
でも別に問題なかったかと思いますよ〜?ww
お心づかいに添って、消しましたがww
大好きと言っていただけて、ほんとにうれしいです!
ありがとうございますうう!


>sakuyaさん
お粗末さまでした!ww
わたしも、久しぶりに長編のてんてーを書いて、やっぱり好きだなあ、と。原点だなあと思いましたww
幕末の文化は、想像も含まれますので、ご注意くださいww
てゆうか、調べても何説かあったり、片方では片方を否定してたり、江戸時代で調べても京都ではまるで違ったりするのです。
例えばメジャーなところでは、江戸時代って、お布団は使わなかったらしいのです。少し調べると出てきます。でも、京都では布団という文化があったんですよね。こっちはあまり知られてないかも。
今回の「おなごの事情」に関しても、月小屋なんて庶民が使ったかどうか。それなりの敷地がないと作れないですし、江戸時代にはその風習はすたれていたという、説もあるのです。
なので、いつも私は都合のいい説を想像力でふくらましてるだけでしてww
テストに書いたら駄目ですよ!ww


>momoさん
ドキドキしてくださって、ありがとうございます!
また今回もおあずけでしたwwすんませんww
もう、てんてー、祝言の時でいいんじゃない?ww
うちのてんてーと小娘ちゃんはホントに不器用MAXで、周りのフォローがないと、まるで進みませんww
寺田屋メンツには苦労をかけますww
読んでくださってありがとうございました!
Posted by ふじ at 2013年09月30日 20:55
はっぴーえんどですな!気持ち良い終わり!!
でも小娘ちゃん、他の女を触るなとは言わなかったのね・・・(笑)
先生も調子が戻られたようでとりあえずは安心です!
そして、見られて困るもんを〜っていう龍馬さんの台詞!!かっこいい!!
先生もそうだけど、龍馬さんにも惚れ直します///
Posted by ヒカリ at 2013年09月30日 21:15
>ヒカリさん
ハッピーエンドです!
それしか書けません!てか書きたくないもん♪
他の女を触るなってのはどっか別のとこで言いますかww
てんてーはすぐ落ち込むけど復活も早いwwまさにジェットコースターですね♪
りょまさん、言葉が不案内なんで、ついセリフが減ってしまうのですがwwもっと活躍させたいですww
Posted by ふじ at 2013年10月01日 21:40
ふじさんのお話のスゴイところは、読み返したくなるところです。

新作(晋作?)をむさぼるように読んだ後、ついつい前のを、更にその前のを…
あ〜ん またこんな時間になってしまったよ(T_T)
まるで中毒です!

は、はやくヤクをくれ(もっと もっと 書いてください〜!)お願いしますm(__)m
Posted by ななはな at 2013年10月12日 15:51
>ななはなさん
読み返していただけるなんて、うれしいです〜(>_<)
ありがとうございます!
私も二人がどうなるのか気になります!
もやもや〜っとしたお話が形になったら書きますのでよろしくお願いします!
Posted by ふじ at 2013年10月13日 10:33
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