2013年05月06日

文は密かに(前編)

幕末志士の恋愛事情、武市半平太先生ルートの二次小説です。
創作作品の時系列はつながってますので、未読の方は左のもくじをご覧ください。

<幕恋近況> GWも最終日ですね。KYOAさまプロデュースの
 『ゴールデン武市ウィーク祭り(GTWF)』に、この作品から1000字抜粋して参加いたしました
 
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文は密かに(前編)                    幕恋創作小説:武市ルート
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サァァァ・・・

空一面に薄くかかった雲は白っぽい灰色。
今日は朝から細かい雨が降っているせいか、少し肌寒い。
いつもは明るい緑にまぶしく感じる中庭も、雨に沈んで緑色を濃くしていた。

「武市さん、こんなに日にお出かけなんて、たいへんだな・・・」

前々からの予定だったらしく、武市さんはお登勢さんに差し出された番傘を持って、
出かけて行った。
当たり前のことだけど、この時代の道はアスファルトで舗装なんてされてないから
すぐ水たまりがそこかしこにできて、どろどろになっちゃうんだよね。

ちゃん」

土間でしゃがみこんで泊り客の下駄の泥を落としていたわたしに、お登勢さんが声を掛けた。

「今、濡れ鼠のお客はん来はってなぁ、湯殿使わはるさかい、奥に行っときよし」
「あ、じゃあ、湯桶に水汲みますよ?」

わたしは手に付いた泥を水に溶かして落としてから、立ち上がった。
湯殿の水はだいぶ汚れていたので、さっき抜いて掃除してしまった。

「ええねん。厨で沸かして掛け湯で充分や。それより中はいっとき」
「はい・・・」
「裸の男共の前にちゃん出したら、先生に叱られるわ」
「お、お登勢さん・・・っ」

そ、その言い方は、なんか誤解を生むような・・・
・・・でも確かに、お風呂に入るときに女の子がふらふらしてたら男の人も嫌だよね。

お登勢さんは、けらけら笑って、

「龍馬はんが文机の前で難儀したはるみたいやわ。熱つーいお茶でも、持ってったげて」
「あ、はい」

お登勢さんて、いつも忙しいのに寺田屋の隅から隅まで良く見てるんだよね。
そういえば、朝、部屋の前を通りかかったとき、
文机に向かって背中を丸めた龍馬さんが見えたような。
あれからずっと、机の前なんだ・・・。大変だな。

わたしは、もうほとんど終わりかけていた下駄の掃除を片付けて、手を洗った。
台所に入って、お茶の準備をする。
すでにお登勢さんが火に掛けて行ったらしい大鍋から、お茶を淹れる分だけお湯をもらった。

あ、慎ちゃんも飲むかな・・・

今日は武市さんと以蔵は留守だけど、慎ちゃんはいるはずだ。
中庭や裏では見かけなかったから、きっと部屋にいるんだろうと思う。
わたしはお茶を二人分淹れると、まずは龍馬さんの部屋へ向かった。

龍馬さんの部屋は障子が閉まっていた。
膝をついて、廊下にお盆を置いてから声を掛ける。

「龍馬さん、お茶もってきました」
「おお、か」

桟に手をかけて、障子を開けると、中に慎ちゃんもいた。

「あ、慎ちゃんもここにいたんだ」

慎ちゃんは龍馬さんと一緒に、文机の上を覗き込んでいた。
顔だけ振り向いて「姉さん」と言う。

「オレになにか用っスか?」
「ううん。お茶、慎ちゃんの分もあるから・・・何見てるの?」

お盆を持って部屋に入ると、ふたりが覗きんでる文机の周りには
何やら和紙がいっぱい散らかしてある。
墨がのってるから書きかけの手紙・・・かな?
それにしてもたくさん・・・それに。
ふたりが額を突き合わせて見てるのも、同じものみたいなんだけど。

・・・・・・。

書いてあるの、コレ、何?
こっちにきてだいぶ筆文字には慣れたはずだけど、わたしにはそれが読めなかった。
みみずがのたくったような・・・ていうのはこういうのを言うんじゃないかな。

「えんぐりっしゅじゃ」

龍馬さんがわたしを見ていつものように笑いながらそう言った。
お盆の上のお茶を二つともとって、一つを慎ちゃんに渡す。
重みを失ったお盆が、反動で少しはねた。

「えんぐり・・・あ、イングリッシュ?」
「ほう、はえんぐりっしゅがわかるがか」
「ええ、まあ・・・学校で習いましたから」
「未来ではえんぐりっしゅも学ぶんスね」

でも・・・これが?英語?
わたしはもう一度英語のつもりで、そのみみずの行列を見た。

うーん・・・筆記体なんだろうけど・・・やっぱり読めない。
わたしの英語力の問題じゃなくて・・・だってアルファベットだとわかんないんだもん。

「・・・・・・龍馬さんが書いたんですか」
「ほうじゃ。読めるかのう」
「・・・・・・」

こ、これは、素直な感想を言った方がいいのかな。
でも・・・下手すぎて読めないなんて言えないよ・・・

「えーっと、その」

言い淀んでると、慎ちゃんがわたしの後を引き取ってきっぱり言った。

「ほらやっぱり、下手すぎっスよ、龍馬さん」
「ほうかのう・・・」
「だいたいオレには、みみずがのたくったようにしか見えないっス」
「・・・・・・」

「姉さんの顔もそう言ってるっス」

ええ!?
た、たしかにそんなこと思ったけど・・・慎ちゃんてば、するどすぎるよ!

「ほうか・・・もみみずに見えるがか・・・」
「いえ、あの、その・・・」

思ったけど、い、言ってないよね、わたし・・・

「ええっと、イングリッシュ・・・っぽい感じには・・・なってますよ?」

うわ、何言ってんだろ、わたし。

「姉さん・・・それは下手ってことっス」
「・・・ぽい、か・・・のが一番こたえるのう・・・」

ああああ、やっぱりフォローになってなかった!

「ごっごめんなさい・・・!あ、じゃあわたし、書きましょうか?」
「姉さん、かけるんスか?」
「うん、多分・・・」

筆だけど、大丈夫だよね。
筆記体はそんなに使わなかったけど、基本は知ってるし。

「ほうか!じゃあそうしてくれるかのう」
「いいですよ」

わたしはお盆を置いて、龍馬さんが開けてくれた文机の前に座った。
龍馬さんは横に座って、巻紙を少し解くと、端を上にして文鎮で抑えた。
ベージュがかった和紙は、繊維が絡まりあった模様で、かすかに艶がある。
未来で使うお習字の紙ともまた違うんだよね。

「まずは、であ、すみす、じゃ」
「ディア、スミスですね・・・」

龍馬さんが分厚い書物をめくりながら書き出しを指示する。
わたしは言われたとおりに丁寧にアルファベットを記した。
時々墨を足しながら、墨が落ちすぎても読めるように、少し大きめに書く。
わからない単語があったら調べてもらわないといけないな、と思ってたけど・・・
内容は簡単なあいさつ文だった。
そんなに難しくないので、スペルを確認することもなく、するすると書ける。

「・・・で、ゆあふれんどじゃ」
「ユア、フレンド・・・龍馬でいいですか?」
「いや、梅太郎ちゅう名前で書いちょくれ」
「梅太郎・・・ですか?」
「龍馬さんの変名ですよ。才谷梅太郎、で通してるんス」

あ、そうなんだ・・・。
一応追われる身だもんね。

「じゃあ、ウ、メ、タロ・・・っと。はい、できました」

筆を硯において、文鎮をはずす。
書いた部分を巻紙から小刀で切り離した。
まだ墨のにかわが乾ききらずにキラキラしてるそれを、わたしは龍馬さんに手渡す。

「おお!早いのう、それに綺麗じゃ、の字は」
「これならオレもえんぐりっしゅってわかるっス」

歴史より英語が得意だったもんね。
この時代じゃあんまり必要ないかと思ってたけど・・・よかった、役に立てて。

は通詞になれるのう」
「つうじ・・・?」
「えんぐりっしゅが話せて、日本語になおしてくれる人のことっス」
「ああ、つまり通訳・・・え、そこまでは無理だよ!」

「いやいや、たいしたもんじゃ」
「でも・・・」

わたしが書いたのは本当に挨拶文で、文を送る本題になるようなことは何も書いてない。

「他にも書くんじゃないんですか?まだ挨拶しか書いてないですけど」
「ええんじゃ、そっちは日本語で、すでに書いちゅう」
「え?日本語で!?大丈夫なんですか?」
「向こうにも通詞はおるからの、問題ないじゃろ」

ええ?
じゃあなんで、挨拶だけ英語で?

思わず疑問が顔に出たのを慎ちゃんが見て、説明してくれた。

「細かい話は日本語でしかできないけど、せめて挨拶くらいは
お国の言葉の方が・・・オレらの心が伝わるだろうって、龍馬さんが」
「そうじゃき。わしも土佐言葉がなつかしゅうなるきの」
「そっか・・・」

そうだよね。
たしかに、わたしも英文でもらう手紙より、日本語の方がきっとうれしいもんね。

「文は心を表すもんじゃき」
「なんか、素敵ですね・・・」

そういえば、手紙なんて書いたこと、あったかな。

「未来でもよく、文を書きましたか?」
「ううん。未来ではほとんど書かなかったよ」
「それじゃ、連絡はどうやってとるんスか?」
「うーん・・・」

電話とメール・・・だよね。でも通じるかな・・・。

「・・・離れたところにいても直接話せる機械、があって・・・」
「おお、わしは聞いたことがあるが。それは、てれほんってやつじゃなか?」
「あ、そう、そうです!テレフォンですね」
「へー、すごいっスね・・・」

そうか、日本にはまだ電話はないけど、外国ならあるんだ。

「あと、文字も送れます。一瞬で相手に届く手紙・・・文ですね」
「一瞬か!」
「はい。一瞬ですね」

龍馬さんはちょっと宙を眺めるような表情をして、言った。

「まっこと、夢のような時代じゃのう・・・」
「・・・夢ってゆーか、もう妖術みたいっスね」
「あはは、ほんとだね」

今思うと、ほんとに便利な時代にいたんだな、わたし。
でも・・・
わたしは龍馬さんの部屋の畳に散らかる英文・・・らしきものの反故紙を見た。

こんなに何度も書き直して、相手に心を伝えようとするなんて・・・
そうか、こういうのが文なんだ。
メールで、パッてのも便利でいいけど、文が心をあらわすって・・・なんだかわかるな。

わたしも書いてみようかな・・・武市さんに・・・

・・・っ!

なんとなく思ったことに、自分でびっくりする。
そ、それって・・・ラブレターってことだよね、そうだよね!
うわっ!は、恥ずかしい・・・
それに、毎日会ってるんだから、今更手紙なんて、おかしいよ。
うん、きっとおかしく思われ・・・

「・・・姉さん、顔が赤いっス」
「え!?」

「・・・武市のことを考えたんじゃろうのう」
「武市さんに・・・恋文でも、書くんスか?」
「えええ!?」

な、なんでバレてるの!?
それに、こ、こいぶみって・・・っ!
ラ、ラブレターより恥ずかし度がアップなんですけどっ!

「だから姉さんはわかりやすいんですって」
「筒抜けじゃな」

「あ、あの・・・そう!わたし台所・・・手伝いに行かなきゃ!」

いたたまれなくなったわたしは、あわてて立ち上がると部屋を出ようと障子に向かった。

「姉さん、お盆忘れてますよ」
「・・・っ」

真っ赤になった顔を見られないように、できるだけうつむいて振り返る。
お盆を引っ掴むとまた振り返って、わたしは部屋を飛び出した。
閉めた障子の向こうで二人の笑い声が聞こえる。

「あははっ!可愛いっスね、姉さんは」
「にしし。茹でたタコみたいじゃったの」

タ、タコ…
ひどいよ、ふたりとも・・・

雨はまだ、しとしとと振り続けていて、
火照ったわたしの頬を、水を含んだ空気がやさしく冷やしてくれた。




夕方、わたしが台所を手伝っていると、玄関の方からお登勢さんの高い声がかすかに聞こえた。

「やあ、先生、お帰りなさい。難儀どしたなあ」
「―――」

武市さんの声は聞こえないけど、きっと帰ってきたの、武市さんだ!
わたしはお迎えしようと前掛けとたすきを外す。
武市さんも、みんなも、寺田屋に入るときは土間を通って裏廊下から上がるので
ちょっと髪を撫でつけながら裏廊下にまわった。台所からは、すぐだ。

「おかえりなさい、武市さん!以蔵!」
、ただいま」
「・・・・・・」

武市さんがわたしを見てふわりと笑ってくれる。
以蔵は無言だけど、いつものことだし。

「雨の中、おつかれさまです」

わたしは土間に下りて、武市さんの番傘を受け取った。
玄関からついてきたらしい、お登勢さんが以蔵の傘を受け取る。
すぼまっていたそれをもう一度開いて、土間の隅に柄を下にして置いた。
未来の世界みたいにビニールなんかじゃないから、手入れには気を使う。
水が切れたら、あとでちゃんと拭かなくちゃ。

ちゃん、先生の足、洗たげたら?」
「え?」

この時代は外を歩くと、晴れた日でも土埃で足が汚れる。今日は雨だからなおさらだ。
だからいつも、帰ってきたらまず、玄関先で足を洗うんだけど・・・。
そういえばよく、玄関でお客さんの足を女中さんが洗ってるのを見たことがある。
でもみんなは、裏廊下から上がるせいか、いつも自分で洗って入っていた。

「雨で着物濡れはったさかい、自分でしはるんはしんどいやろ?それに・・・」

そこから先は急に声を小さくして、わたしの耳にささやいた。

「・・・足洗って差し上げるんは、奥様の仕事やで」
「えっ!」

そ、そうなんだ・・・
未来じゃ必要ない習慣だから、考えたこともなかった・・・

「・・・ちゃんがしぃひんにゃったら、うっとこの女中呼んでやらせるけど・・・」
「わ、わたしがやります!」

思わず、そう言っていた。
あ・・・っ! わ、わたし・・・つい・・・
そっと武市さんの方を見ると、

「お願いするよ、
「・・・はい!」

良かった・・・奥さんじゃないからダメって言われなくて。
だって・・・奥さんの仕事なんて言われたら、他の女の人にやってもらうのは、やっぱり・・・嫌。

わたしは足を洗う用に置いてあった、たらいに、台所からお湯を少しもらってきた。
雨で冷え切ってるだろうから、温かいほうがいいよね。
汲み置いてあった水で少し割ってぬるま湯にする。
武市さんは二段になった上り框の上段に腰掛けた。

「じゃ、すいません、足を・・・」
「ああ」

雨の日用の歯の長い足駄を脱いで、武市さんがお湯に足を入れる。
やっぱり、泥だらけだ。一日中雨だったからなあ・・・
わたしは手拭いを丸めてお湯に浸しながら、丁寧に足をあらった。

やっぱり男の人だなあ・・・
足が大きくて、ちょっとどきどきする。

まずは右足・・・くるぶしから踵・・・足の甲も・・・それから指先。
ついてる泥をお湯の中で洗い落とす。
なんか、足裏マッサージ、みたい。やったことないけど。
手拭いだけじゃ落としきれないので、指先も使って泥を落とした。

あ、足の指の間にも泥がついてる。
武市さんの手って指が長くてきれいだけど、足の指も・・・長いな。
痛くないようにやさしく、五指をわけるようにして、指の間をなぞってきれいにした。

くすぐったくないかな、と思って視線を移して武市さんを見上げると、
武市さんは少し赤い顔をして微笑んだ。

「これは・・・・・・想像以上に、くるね」

え?

「ごめんなさい、くすぐったかったですか?」
「いや、そういう意味じゃない」


ええっと・・・じゃあ、どういう意味?

「気にしないで。・・・大丈夫、気持ちいいよ」
「あ、はい」

指の間も爪の間も、泥が落ちたのを確認して、わたしは懐から乾いた手拭いを出した。
ちょっと足を持ち上げて、滴る水を拭く。
両足とも拭き終わると、武市さんは上り框の下段に足を下おろした。

「ありがとう、

武市さんが笑ってくれる。
なんだか、わたしも嬉しい。
それに、ただ「おつかれさま」って言うよりずっと・・・武市さんに伝わる気がする。
そうか、だから自分でやれることだけど、奥さんが洗ってあげるんだ。
おつかれさま・・・って・・・気持ちを込めるんだね。

「あ、以蔵も洗ってあげようか?」

武市さんに続いて框へ上がろうとした以蔵に、わたしはそう声を掛けた。
どうせついでだから洗ってあげようかな、と思っただけなんだけど・・・

「・・・・っ、お前それは・・・」
「以蔵」

ちょっとあわてたような以蔵の声。被せるように、武市さんが短く名前を呼ぶ。
低い声で・・・ちょっと怖い顔。

・・・・・・。
えっと・・・これは・・・洗っちゃダメってことかな・・・

「いい!俺は自分でやる」
「あ、うん・・・そうだね・・・」

な、なんかよくわかんないけど・・・ごめん、以蔵。

「龍馬は部屋?」
「はい。いると思います」

答えると、武市さんは龍馬さんの部屋へ向かって歩いて行った。
今日も忙しそうだなあ・・・
ここ数日ふたりで過ごす時間はほとんどなくて。

でも邪魔しちゃ・・・いけないよね。
わたしは足を洗ってる以蔵に気付かれないよう、小さくため息をついた。




次の日。
一晩中降り続いていた雨だったけど、朝にはちょっと小休止していた。
でもまだ空は白っぽい雲に覆われて、青空が見えない。

「また降り出しそう・・・」

寺田屋の店先を、看板の掃除から始める。
道のあちこちには大きな黄土色の水たまりが、たくさんできていた。
雨のおかげで寺田屋の土間は泥だらけで、掃除するのが大変・・・。

「寺田屋の女中はんでっか?」
「はい?」

いや、女中じゃないけど・・・まあいっか。

「なにか、御用ですか?」

わたしに声をかけたのは、どこかのお店の下男といったいでたちの男の人だった。

「ここは寺田屋でっしゃろ?」
「はい」
「こちらにご逗留の、柳川左門先生にお文を・・・」
「あ、はい」

なんだ、文か。
この時代、郵便なんてないから、よくこうして人伝いで文が届く。
柳川先生ってのが誰だかわかんないけど、たぶん宿泊客のひとりなんだろうな。

「手前は柏屋のもんどす。ほな、よろしゅう頼んまっせ」

柏屋・・・
全然知らないけど、どこかのお店の屋号だろうか。
男の人は足早に立ち去った。

「あ、どうも、ご苦労様でした!」

わたしはあわてて頭を下げて、見送った。
手の中に残った文を、見下ろす。
封紙の表には、柳川左門殿・・・ひっくり返すと、差出人の署名があった。

「染香・・・」

女の人の名前・・・だよね。
柳川先生って人の、奥様かな・・・

取りあえず手紙を届けようと、掃除を中断して、わたしは中に入った。
宛先の人が誰かは、お登勢さんに聞けばわかるはず。
お登勢さんの姿は台所にあった。

「お登勢さん、これ・・・」
「なんや、文?」
「これ、今そこで預かったんですけど。柳川先生って泊まってますか?」

「あら!ちゃん知らんかった?」
「え?」

お登勢さんの次の言葉は、わたしの心に深く突き刺さった。


「柳川左門やろ? 武市先生が使うてる変名やないの」


―――え?
武市先生が・・・じゃあ、この文は、武市さん宛て・・・?


『 染香 』


その二文字が、女らしい柔らかな曲線で記された筆文字が・・・
わたしには、鋭い棘のように見えて・・・・・・脳裏に焼き付いて消えなかった・・・。


<つづく>


posted by ふじ at 13:43| Comment(15) | 連作長編―武市 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こ、これはまた・・意味深げな・・!!

私なら 迷わず シュレッダー(笑)

旦那様の足を洗ってあげるのが 当時の風習だとは知りませんでした。
ほんと、時代背景や男性心理に(以蔵の足の件ね)詳しいふじ先生w
勉強になります。

あ〜今から そわそわする。
後編、楽しみにしています(^^)
Posted by みなみ at 2013年05月06日 16:27
すごい意味深ですね^^;続きが気になります〜!!でも、『 染香 』ってどこかで聞いたことがあるきがするんですが…。気のせいですかね??変なことを書き込んですみませんm(_ _)m中篇でも、後編でも、楽しみにしています^^
Posted by カイナギ at 2013年05月06日 17:19
本題は先お二方とほぼ同じで続きをたのしみに。
『えんぐりっしゅ』に四苦八苦する龍馬さんと慎ちゃん、が、時代を感じさせてくれてすてきです。
……以蔵くんは別の意味で日常、苦労し通ししてそうですね…
Posted by りゅーま at 2013年05月06日 19:14
調子に乗ってまたお邪魔します^^;

もう本当にふじさんの書かれる武市先生の魅力的な事と言ったら・・・!
本編をプレイしているかのような錯覚に陥ります 笑

想像以上に来た何かを隠そうとする先生がたまらんです。
ここにお邪魔するようになってから、他ルートの先生が可愛くて仕方ないです 笑

続き楽しみにしています♪
Posted by AYO at 2013年05月06日 19:28
fujiさん 新作も素敵です。GTWF最終日の盛り上がりすごいですね。
fujiさんのらぶらぶシーンはいつも「コレコレ!こーゆーのが読みたかったの!」って叫びたくなります。
先生の長い指は萌えポイントですぅ・・が、指の間というのがまた・・盲点的なポイントですよね・・
fujiさんたら・・オ・ト・ナ (*>ω<)キャー!! コメントもありがとうございました。m(_ _)m
Posted by たたた at 2013年05月06日 20:27
>みなみさま
みなみさまの「シュレッダー」発言で、
小娘ちゃんが夜中にひとり、ろうそくの明かりで、手紙を小刀でバラバラに切り刻むシーンが頭をよぎりました。
「未来には・・・シュレッダーっていうのが・・・あるんですよね・・・」
とか言いながら・・・。
先生どうする!?
すいません、わるふざけしました<(_ _)>
コメントありがとうございました!


>カイナギさま
続きが気になる所で止めてすいません(笑)
「染香」はできるだけ小娘ちゃんの名前とかぶんないように、今なさそうで、ちょっと色っぽい・・・みたいな基準で採用しました。
引用は雨柳堂夢咄という漫画にちらっと名前だけ出てくる脇役もいいとこの芸者の名前・・・だったかな?
続きを楽しみにしていただけてうれしいです。
コメントありがとうございました!


>りゅーまさま
龍馬が英語書けたかは知らないんですけどね(笑)
当時の志士たちがどの程度英語力があったかはわかりませんが、切羽詰まった状況なので、けっこう必死に覚えたんじゃないかなあ、と思います。
お手本が少ないから、発音と筆記はダメダメでも、単語はけっこう知ってたんじゃないかな、と。
今回以蔵は完全に作者に狙い撃ちです(笑) あそこで先生の嫉妬をうけるのは以蔵しかいません。
コメントありがとうございました!


>AYOさま
たくさん来てくださってうれしいです。
わかりづらいセリフかな〜と思いましたが、先生ならきっとこう言うかと「想像以上に、くるね」になりました。
わかっていただけてうれしいです〜♪
私も他ルートをやっていても先生が可愛くて・・・龍馬ルートで龍馬をからかう時の先生、かわいかったなあ。
コメントありがとうございました!


>たたたさま
ほんと、GTWF最終日、盛り上がりがすごいですね〜!
遅すぎたかと思ったけど、アップしてよかったです。
先生の立ち姿のお手々、たまりません。
もっとじっくり見たいところですが・・・想像で補完。
絶対ステキな長い指してると思います。いじくりまわしたい!(←オイ)
コメントありがとうございました!
Posted by ふじ at 2013年05月06日 21:32
>龍馬が英語書けたか〜
私も解りません…ただ、蘭学は長崎出島のポルトガル語が限界の時代だったとしか。ただ、少なくとも寺田屋事件や近江屋事件が回避されたら、きっと必死になって覚えるような人たちだとは思います。記録上の龍馬さんは前のお話のとおり、子供時代はダメな子だった、っていうのは他でも読んだことがありますので、なおさら。……だからこそ、私、ふじさんのお話、好きなんです(^^;
Posted by りゅーま at 2013年05月06日 22:11
想像以上に、くるのか…
もうダメだ(*´Д`)ハァ
読んだ瞬間、思わず赤面して口を押えてしまいましたっ
続きも楽しみにしてます〜♪
Posted by きみぃ at 2013年05月06日 22:42
私も「いいね、、 想像以上にくるね」のくだりで、あれやこれや想像してしまい、PC前で赤面でした(笑)
足湯するとこは、脳内妄想力が好調に稼動してしまい、パチャ、とかピチャとか音がするくらいリアルに妄想しちゃいました。。。

早く〜続きみたいです・・・・
Posted by agaaga at 2013年05月07日 00:39
>りゅーまさま
追加のコメント、ありがとうございます。
龍馬については出典がうろ覚えなんですが、英単語を覚えようとしていたという話があったと思います。乙女=girlを覚えようとオトメガルルと言ったとか書いたとか・・・(別の人だったらすいません)
で、ガールがガルルて、と思いまして(笑)
きっと発音とか筆記は苦手だったろうな、と。
メッセージもありがとうございました。


>きみぃさま
想像以上に、くるんです。(笑)
そりゃもう、先生ならむっつりですから、いろんなこと妄想しちゃいます。
赤面していただけて、うれしいです。
コメントそしてミニメ、ありがとうございました。
こちらでもお礼を言わせていただきます。


>agaagaさま
音が聞こえるほどとは、想像力がすばらしいのですね!
わたしもagaagaさまのコメントを見て、さっそく妄想にON AIRで・・・(以下自粛)
コアなシチュかと思って、外したら自分痛すぎる、と思ってたのですが、赤面していただけて良かった(笑)
コメントありがとうございました!
Posted by ふじ at 2013年05月07日 04:08
ふじさん、新しいお話楽しみに待ってましたー!
今回も読み応えあって、しかもみんさんと同じところで赤面(これは、想像以上にくるね)イヤー恥ずかしい!この意味が分からない小娘・・代わってあげたい!!しかも以蔵にまで聞いちゃって・・・罪作りだわぁ。ニヤニヤして何度も読んでしまいました!!!続きも楽しみにしていまーす!
Posted by まき at 2013年05月07日 10:12
「・・・ごめん、以蔵」が気に入っちゃいました。
あぁ、、以蔵を洗ってあげたい。そしてとてつもない嫉妬に狂う先生を見たい!!!
Posted by デュラ at 2013年05月07日 11:54
>まきさま
たしかに、小娘ちゃんたらもったいない、代わってあげたい〜(>_<)
わかりづらい言い回しかな〜と思ってたのですが、予想以上に好評でうれしいです(笑)
コメントありがとうございました!


>デュラさま
あ、その展開は考えませんでした(笑)
いいかも。洗ってあげちゃって、以蔵はちょっと赤面。
先生は・・・・・・雷とか降らしそうです(笑)
コメントありがとうございました!
Posted by ふじ at 2013年05月07日 20:03
カイナギさんのお目にとまるといいのですが……

ネット探してみたら、仏教関連で
『染香人(ぜんこうにん)』というのがあるらしいです。

仏の智慧の香に染まった人。念仏の行者をいう。
【左訓】
「かうばしき香、身に染めるがごとしといふ」(異本)(浄土 P.577) 
「かうばしき香、身に染めるがごとしといふ」

等。

あと、ニコニコ動画にこのハンドル使う有名な歌い手さんがいらっしゃる模様です……ネットってべんりだなー

ふじさん、お邪魔しました。
先々のお話の展開でも、まだまだ先生に幻滅してない以蔵くんは、ある意味すごいと思います(^^;

                     
Posted by りゅーま at 2013年05月17日 00:33
>りゅーまさま
おお!そんな意味があるんですか。
カイナギさん、見てくれるかな〜(いいとも〜!じゃなくて!)

そう言えば、ウチの以蔵くんは完全にいじめられキャラになっちゃってますね・・・
本編で感じた「先生って以蔵には理不尽にキツイなあ」というイメージに偏ってるかも。
あんだけ無下にあつかわれて、何故愛想つかさないのか・・・(笑)
すげーな、以蔵。
コメントありがとうございました!
Posted by ふじ at 2013年05月17日 00:48
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