2013年04月27日

たとえ火の中(前編)

幕末志士の恋愛事情、武市半平太先生ルートの二次小説です。
創作作品の時系列はつながってますので、未読の方は左のもくじをご覧ください。
ゲーム本編のネタバレも多少含みます。未プレイの方はネタバレ注意。
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たとえ火の中(前編)                    幕恋創作小説:武市ルート
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「あ、洗い粉がない」

朝餉の片付けも済んで、寺田屋の湯殿をお掃除していたわたしは
ふと洗い粉が残り少ないことに気付いた。
洗い粉というのは髪を洗うときにつける褐色の粉で、黒っぽい繊維が混ざってるんだけど。

「お登勢さーん・・・」

お登勢さんの姿を探すと、中庭の隅で女中さんと、板戸を外して並べてるのを見つけた。
板戸を2枚一組で立てかけて、足元を石で固定し、その上に布団をかける。
どうやら即席の布団干しを作ってるようだった。

「布団干しですか?お登勢さん」
「ああ、ちゃん。そうなんよ。今日ちょっとこれから団体さんが着くんでな」

そうか、だからなんだか寺田屋の中がばたばたしてるんだ。
いつもより泊り客が多いので、普段しまってある布団を出してきたらしい。
お登勢さんは生垣に立てかけてあった布団叩きを手に取った。

ちゃん、ホコリんなるで。離れとき」
「あ、お登勢さん。湯殿の洗い粉がもう少ないんですけど・・・」
「あー、そやったな。・・・しもた、忘れとったわ」

お登勢さんが口に手をあてて言う。

「そろそろもらいに行かへんと、と思てたんやった」
「もらいに?」

買いに行くんじゃなくて、もらいに行くんだ。

「うどん粉ひいてる知り合いの製粉小屋で、分けてくれてるんよ」
「うどん粉?」

小麦粉のことかな。うどんは小麦粉で出来てた・・・はず。

「うどんを作るときの粉やな。あの洗い粉もうどん粉や。
 でもほら、黒い紐みたいなんが入っとるやろ?」
「はい、そうですよね」
「あれがふのりっちゅう海藻なんやけど。普通は別々に売ってるんよ。
 でも知り合いの小屋で、言えば石臼で引いて混ぜてくれるんで、
 うちではそれを使うてんのや」

へえ、じゃあ、洗い粉も要するに小麦粉なんだ。色が白くないからそう思わなかった。
それに、あの黒っぽい繊維は海藻だったんだ。
そういえば、未来でも海藻の成分が入ってるトリートメントとかあるもんね。

「でも今日は行かれへんなぁ・・・」
「あ、じゃあ、わたしが行ってきますよ」
「ええ?でもちょっと遠いで?」
「大丈夫です。最近歩くの慣れたんですよ。それに洗い粉一番使ってるのわたしだし・・・」

そうなんだよね。
こっちの時代の人って、長い髪で日本髪を結ってるせいもあって、
洗うと大変だからかそんなしょっちゅう髪洗ったりしないみたいなんだけど。
わたしは前の世界で毎日洗ってたから、どうしても我慢できなくて、
二日に一回とかのペースで洗い粉を使っている。
だからきっと、お登勢さんも粉が減るタイミングつかめなかったんだと思うんだよね。

「今日はみなさん忙しそうだし。わたしが行ってきます」
「うーん。・・・じゃあ、お願いするわ、ちゃん」
「はい!」

よかった。

「ほしたら、途中で宝積屋さんの饅頭買うて、持ってってな。いつもお礼に持ってくんや」
「わかりました。こしあんですね。」
「そや。お登勢がよろしゅうゆうてました、ってな」
「はい」

宝積屋さんのこしあんのお饅頭は、武市さんも好きだもんね。

わたしはいったん部屋に戻って身支度を整えると
その間にお登勢さんが用意してくれた製粉所の地図をもらった。
ちょっと山の方に行くから確かに近くはないけど、大丈夫、行けそう。

寺田屋の玄関を出ようとしたところで、声がかかった。

「おい、出かけるのか?」
「あれ、以蔵いたんだ」

武市さんと出かけていたはずの以蔵が、廊下の奥から顔をのぞかせている。

「武市さんも戻ってるの?」
「いや、先生はまだ会合中だ。俺はちょっと荷物を取りに来て・・・それより出かけるのか」
「うん。ちょっとおつかいに」
「・・・大丈夫なのか」
「なにそれ、大丈夫だよ」

わたしが笑って言うと、

「・・・だってお前、一度迷子に・・・」
「もうなりません!」

それってこっちの世界に来たばっかりの時じゃない。
たしかにあの時は寺田屋が分からなくて武市さんが探してくれたけど。
もうだいぶ道も覚えたし、大丈夫なのに。

「・・・新選組にも、気をつけろよ。お前は顔を・・・」
「大丈夫、あの青い羽織なら、100メートル先からでも気づくもん」
「・・・ひゃくめえとる?」
「あ、えーと、だから遠くからでもすぐ分かるでしょ」

100メートルって、この時代はどのくらいなんだろう。

「・・・まあ確かにな」
「でしょ。じゃあ行ってきます」

以蔵にそう言って、わたしは寺田屋を出た。




宝積屋に寄ってこしあんの饅頭を包んでもらうと、わたしは街中を抜けて山の方へ向かった。

やわらかに吹く風が髪を揺らす。
気持ちいい・・・。
こういうとこ、武市さんと散歩したいなぁ・・・。

山道に入ると、木漏れ日がキラキラと道の上で楽しげに揺れていた。
土が踏み固められた道の両脇に、ところどころ花が咲いている。
黄色い花、紫の花、白い花・・・
名前は全然わからないけど、見ているだけでうれしくなるから花って不思議。
通り過ぎる色さまざまな春の景色に、足の疲れも感じなかった。

そんな中、ふと顔を上げると、道の途中の広場に茶店が出ている。
赤い床几に日よけの傘。
何人かがお茶を飲んでいるのが見えた。

あれ・・・?

その中に、きれいな女の人がいた。
女の人にしては背が高く、おしろいと紅でお化粧したかなりの美人だ。

でも、なんだか・・・
どこかで会ったような・・・?

歩きながら、わたしはその人をじっと見てしまっていたらしい。
ふと、視線に気づいたように、その人はこちらを見た。

「・・・!」

ちょっとびっくりしたような顔と、間があった。
あれ、やっぱり、知り合いかな・・・
でも、こんなモデルさんみたいな美人、一度会ったら忘れないよね。

思わずちょっと首をかしげると、彼女は微笑んで、会釈した。
髪に刺したべっこうのかんざしが、木漏れ日を反射して黄色く光る。

わたしはあわてて、小さく頭を下げた。
下げた視線を戻すと、もう彼女はこちらを見てはいない。

・・・やっぱり、気のせいみたい。
あんまりじっとみるから、変に思ったのかな。
ていうか、綺麗な人に見とれてた、って思われたかも・・・。
ちょっと、恥ずかしい・・・

わたしは足早に、茶店を通り過ぎた。



しばらく行って横道に入ると、お登勢さんに教えてもらった通りの製粉所が見えた。
大きな水車がゆっくりと回っている。
水車にくっつくように建った水車小屋と、あと他にもいくつか小さな小屋が建っていた。

小川の水音と、水車からこぼれた水がはじける音、そして水車がきしむ音々が
まるでここだけ時間の流れがゆっくりみたいな、のどかな空気を彩っている。

「こんにちはー」

水車小屋の入り口に立って、声を掛ける。
薄暗い室内に目が慣れてくると、大きな石臼がゆっくり回っているのが見えた。
水車の力でこれを回して、粉にしてるんだ・・・

石と石のかみ合わせから、さらさらと薄茶色い粉がこぼれて、
石臼が丸ごと入っている木の桶の中にたまっていた。

これがうどん粉、かな。
やっぱり未来での小麦粉ほど白くはないんだよね・・・。何が違うんだろ。

「なんや、お客はんか?」

戸口から中を覗き込んでいたわたしの背後から、おじさんぽい声がかかった。
あわてて向き直って、頭を下げる。

「ご、ごめんなさい!勝手にのぞいて」
「ああ、べつにかまへん。どや、でっかい石臼やろ」
「はい。すごいですね」

おじさんはにかっと笑ってわたしの横を通り過ぎると、中に入った。

「ちょお、待っといてな」

石臼に近づいて、木じゃくしをつかって石臼の上のタライみたいな容器に穀物を入れる。
何度か繰り返してタライがいっぱいになると、一度、手でならすようにかき混ぜた。

「で、お客はん、なんのおつかいでっか?」
「あ、わたし、と言いますが、寺田屋女将のお登勢さんのお使いで・・・」
「ああ、お登勢んとこの!」

お登勢さんの名前を聞いて、おじさんはまたにかっと笑った。

「はい。あのこれ、お登勢さんに言付かってきたんですが」

お饅頭の包みを差し出した。

「ああ、毎度すんまへんのう。気にせんでもええんに。洗い粉やろ?」
「あ、はい。こちらで分けてもらってるとか」
「ああ、今ひいたるさかい、待ってな」

そう言うとおじさんは水車小屋を出てくると隣の小屋に入る。
そこには、手で回すような、ちいさな石臼がいくつか、板の間に置いてあった。
おじさんはそのうちの一つの前に胡坐で座ると、壁際に並べてあった布袋から毛玉みたいな
黒っぽい塊を取り出すして、ばらっと石臼に入れた。
あれが、海藻なのかな。

おじさんは、石臼の取っ手の部分を持って、ごりごりと回す。
海藻を上から押さえて押し込むようにした。
すぐに、海の匂い・・・海苔みたいな匂いが漂ってくる。
ああ、たしか、ふのりっていってたもんね。海藻って海苔の一種なのかも・・・。

「お嬢さん、お登勢んとこの新しい奉公人でっか?」
「いえ、あの・・・居候、というか。たまにこうしてお手伝いさせてもらってます」
「はは、居候でっか。お登勢の懐は男並みにでっかいから、お嬢さんも心配あらへんやろ」
「あはは。お登勢さんにはすごく良くしてもらってて・・・」

おじさんと軽く世間話をしているうちに、ふのりが引けたらしく、おじさんは粉袋を持ってきた。
トートバックくらいの大きさで、はじめは満杯に入っていた中のうどん粉を、半分ほど別に移す。
そこに今石臼で引いた黒い繊維を全部入れて、袋の中をかき混ぜた。
粉の煙が袋から噴き出して、小屋の中に舞って、
戸口から差し込む光の線をを浮かび上がらせた。

「さ、これくらいでええやろ。持ってき」
「ありがとうございます」

細めの縄で簡単に口を縛ると、袋ごと渡してくれる。
わたしはそれを受け取って、頭を下げた。
おじさんに見送られて、帰路に着く。
横道から街道に出て、来た道を辿った。

よし、お使い完了。
あとは寺田屋にもどるだけ・・・

粉袋が意外に重くてずり落ちそうになるので、わたしは抱えなおしながら歩いた。
結びが緩かったのか、口を縛った縄がちょっと外れそう。
どっかで結びなおしたほうがいいかな・・・
でも袋をおろせるようなところもないし・・・
あ。さっきの茶店まで行けば、結びなおせるかも。

そう思って道の先を見る。
茶店はまだ先みたいだけど、二人連れの人影が見えた。

街道を行き合ってる人はたくさんいるから、べつにおかしくないんだけど・・・
なにか・・・気になるような・・・

互いに向かい合ってるので、距離はどんどん近づく。

背の高い大きな人と、もう一人はちょっと小柄な・・・
どこかで、見たような背格好で・・・あれは・・・


――――うそっ!平助くん!?

二人連れの片方は、新選組の平助くんだ。
隊服の青い羽織を着ていないので、すぐには分からなかったのだ。
しかももう一人は・・・土方、さん・・・。
土方さんに捕まって、平助くんに屯所に連れて行かれそうになった時、土方さんは・・・
わたしを、豚小屋に入れるって―――

ままま、まずいっ!

わたしは無意識に進めていた足を踏ん張って、きゅっと止まった。
ど、どうしよう・・・
きょろきょろとあたりを見回す。

に、逃げなきゃ・・・っ

すると、急に止まったわたしが逆に目立ったのか、平助くんがわたしに気づいた。

「―――あっ!!」
「なんだと!?」

土方さんの声を聞いて、わたしはとっさに道横の繁みに飛び込んだ。
縦に長い草が、着物に当たって、ザン、と音を立てる。
道のない藪をかき分け、木々の間を縫って駆けた。

とにかく逃げなきゃ!
捕まったら豚小屋・・・はともかく、寺田屋のことが・・・みんなが・・・!
そんなの、絶対イヤ!

木の根を飛び越え、生い茂る枝を避ける。
背の高い草が手の甲に触れて、チッと熱を感じた。
切れたらしいけど気にする余裕はない。わたしは必死に走った。

「待て!」

平助くんの声が聞こえる。
やっぱり追いかけてきてるんだ。
でも後ろを振り返る暇もない。
ひたすら木々をかき分けて、とにかく早く、早く、前へ進んだ。

ザザッ

「・・・あっ」

急に林が切れて、草むらだけの場所に出た。
近くを川が流れているのか水音がする。それまで木が遮っていた青い空が見えた。

てゆうか、こんな見晴らしがいいとこに出ちゃうなんて・・・!
身、身を隠すところは・・・

!待ちやがれ!」

ザッ!

草をかき分けて、平助くんが出てきた。
そのすぐ後を、土方さんも。
二人とも、息すら切らしていない。

ほ、ほんっと―・・・に、まずい・・・

わたしは抱きしめるように持っていた粉袋を、ぎゅっとする。


「逃げるんじゃねえぜ、女。逃がすつもりはねぇが、追いかけんのが面倒だからな」

土方さんが、腰の刀をちょっと持ち上げて見せた。
き・・・斬るって・・・意味だよね、やっぱり。

、動くなよ」
「こ、来ないでくださいっ!」

平助くんが近づいてくる。
わたしはじりっと後ずさった。

「あ、バカ!後ろ!危ねぇんだよ!」
「え?」

言われて足元を見ると―――

「きゃっ」

地面が急に無くなって・・・そこは小さな崖の上だった。
そんなに高くはないけど、崖の下には黒々とした川が音を立てて流れている。
さっきの川音はこれだったんだ・・・

「な、もう逃げ場はないだろ」
「あきらめな、女」

そ、そんな・・・

「今度こそ坂本龍馬の居場所を吐いてもらうぜ」

・・・絶対、イヤ。
わたしは下を向いて口を固く引き結んだ。

「・・・これが坂本龍馬のイロだってのか?とてもそうは見えねえな」
「土方さん、違うって。は武市半平太のイロだって言っただろ」

イロ・・・って、女って意味だっけ。
たしかに・・・わたしは武市さんのことが好きだけど。

「・・・どっちにしろ、そうは見えねえな」

土方さんが、そう言ってわたしを見る。

「そうか?かわいいじゃん、こいつ」
「てめぇの目は節穴か、平助。
 この女が男を知ってるようには見えねェって言ってんだ」
「・・・そう言えば・・・」

な、なに!?
平助くんがわたしを上から下まで、じぃーっと見た。

「色気がねぇ」

色気!?
が、ない!?

「・・・なっ!」

いやいやいや、そんなことに腹を立ててる場合じゃなくて。

「たしかに、男を知ってるようには見えねぇ、かも」

そりゃ、わたしは女の子だし・・・男の人って良く知らないけど。
そんなの、外から見てわかるもの、かな?

「まあ、イロじゃなくても仲間には違いねぇ。
 なんだったら男については俺がじっくり教えてやるぜ」
「また、土方さんは・・・」

あきれたように平助くんが首を振った。

「その女癖の悪さ、いつか祟るぜ」
「ほう、どう祟るか教えてもらいたいもんだな」

わたしがもう逃げられないと思ってか、土方さんと平助くんは軽い言い合いを始める。
・・・なんだか寺田屋のみんな、みたい。

って、なごんでる場合じゃない!

どうしよう、このまま連れて行かれたら・・・
やっぱり拷問されて、寺田屋のことを言わされちゃうのかな。
そしたらみんな、捕まって・・・ひどい、目に・・・
そんなの、やっぱり絶対絶対ダメ!

何か・・・何かできないの?
どうにかして、ここから逃げられれば・・・

平助くんの腰に、刀がある。
・・・でもダメだ。手を伸ばせるような隙はさすがにない。
間合いからしても、わたしの手が届く前に、平助くんは刀を抜ける。

それじゃ、意味がない・・・

ザー・・・

後ろには、川の音。
そうだ、崖の高さはそんなになかった。飛び込んで、逃げれば・・・

・・・ううん。わたしが飛び込めるなら、平助くんだって飛び込める。
泳ぎは得意だけど、男の人に勝てるほど上手いわけじゃない。

それにこの距離じゃ、飛び込む前に腕をつかまれてもおかしくない・・・。


何をするにしても、今のこの二人には全然隙がない。
わたしがたとえ剣をもっていても、打ち込める気がしない・・・

・・・せめて、二人の気を、少しでもそらせたら・・・
何か・・・わたしにできることは・・・



☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「そもそもあんたは節操がなさすぎなんだよっ」
「女はいい情報源になるぜ」
「だからって、にまで手ェだすことねぇだろ!まだ子供じゃねぇか!」
「ん?子供を大人の女にしてやるのが男の親切ってもんだ」
「どこが親切だよ・・・」

はぁ、土方さんとこの手の話をすると、いつもこうだ。
なんでこんな男に女は寄ってくるんだ。

「ああ、もういい、屯所もどるぜ」
「是非もねぇな」

オレはに向き直った。
は布袋を抱えて、じっと下を向いている。

そんなつもりじゃなかったが、怯えさせちまったか・・・
ったく、土方さんが刀を持ち出して脅すから・・・

、悪いが一緒に来てもらうぜ」
「・・・・・・」
「なに、おとなしくしてれば、ひどいことはしねぇからよ」

「平助、生ぬるい言葉、かけんじゃねえ。この女は敵方だ」
「たかが女子供に抜き身拝ませる必要もねぇだろ!」

オレが声を大きくすると、土方さんはちょっと黙った。
わかってる、が本当に情報を持ってるなら、そしてそれを隠そうとするなら、
・・・拷問は避けられない。
だからせめて、そうなるまえにしゃべってくれれば・・・

「・・・ごや」

が小さな声で何かを言った。

「なんだって?」
「・・・豚小屋に、わたしを入れるんですか?」

ああ、前に土方さんが言ったことを覚えてるのか。
年頃の娘だ、無理もない。

「しねえって、そんなこと」

そう言って、安心させようとの肩に触れようとした、その時―――


ばふっ!


突然、視界が真っ白になった。

「な・・・っ!」
「―――っ!?」

驚いて息を吸ったとたん、粉が入ってのどに届く。

「がっ!げ、げほっ!」
「・・・ぐっ!ごほっ!ごほっっ」

オレと土方さんは盛大にむせた。

「お断りです!」

の声!
やばい逃げられ―――

オレはの退路を断とうと、とりあえず身を引いた。
煙幕で視界はうばわれたが、それはも同じなはず。
とにかく今はが逃げるために森に入るのさえ防げば―――気配は、どこだ?

だが。

―――ざっぱーん!

なっ!
まさか!?

盛大な水音。
崖の下には川が通っていたはず。
さほど高くないといっても簡単に飛び込める高さじゃない。
まさか―――

風が吹いて、煙幕が晴れてくる。

「げほっ」

のどに残った粉を咳き込んで追いやった。
視界はじきに戻ったが、やはり、の姿はない。
オレは崖に近づいて川をのぞき込んだ。

ゆったりと流れる川面に、乱れはない。
すでに下流へ流されたか・・・

「――ははっ!」

突然土方さんが笑った。

「・・・何笑ってんだよ」
「こいつはおもしれぇじゃねえか」

・・・ったく。
たしかに、土方さんが好きそうな女だ。

「――なんて女だ。見事に一杯喰わされたぜ。今日は俺たちの負けだ」
「なに余裕ぶっこいてんだよ、すぐ下流に・・・」
「やめとけ、無駄だ」

ニヤリと笑って土方さんが言う。

「おそらくその辺に、仲間が潜んでいたはずだ」
「はあ!?」
も気づいてなかったみてぇだがな。煙幕の瞬間、わずかに殺気がもれてたぜ」
「ほんとかよ・・・」
「そこの繁みだ」

示された場所を、かき分ける。
もちろん、すでに仲間とやらの影も形もないが・・・
いや、何か・・・落ちている。

「・・・なんだこりゃ、かんざし?女か?」
「いや。あの殺気は女じゃねぇ。となると・・・」

女じゃない・・・つまり、このかんざしは、変装?

「・・・さしずめ、逃げの小五郎あたりか」
「あ!変装がばかみたいに上手いって・・・」

桂小五郎・・・女装って・・・まじかよ。

「まあ桂はおまけだ。今回はひとりにやられたぜ」
「・・・うれしそうに言ってんじゃねえよ」
「はっ!」

土方さんがおもしろそうに笑いだす。
ったく、完全にのこと気に入ってやがるな。

だが、無理もない。
あんなに度胸の据わった女は、見たことがない。

・・・たいした女だ。

「今日は楽しませてもらった、見逃してやるさ。行くぞ平助」
「ああ。」

土方さんについて、街道に戻るために、もう一度林に踏み入る。
俺は手に持っていたべっこうのかんざしを放り投げた。


かんざしは緩やかな弧を描いて、空中でくるっと回る。
春の日差しに黄色い光を散らして、が消えた川面に吸い込まれていった。



<つづく>


posted by ふじ at 23:08| Comment(12) | 連作長編―武市 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
わあ!新しい物語ですね!
ドキドキします。

続き楽しみにしています♪
Posted by 馨 at 2013年04月28日 09:53
またまたお邪魔してます。
今回はハラハラドキドキの展開ですね。
思わず手に汗握る場面に続きがとっても気になります。
Posted by kamikakusi at 2013年04月28日 10:00
続きが気になって 家事に身が入りません〜w!!

ほんと、こっちまでドキドキします。
いろんなキャラの描写も 臨場感も最高です!
Posted by みなみ at 2013年04月28日 10:03
他のお話も毎度楽しく拝見させていただいていますが、今回のは今までにないお話展開!とっても楽しいです♪続きがとっても楽しみ(^◇^)
余談ですが、初めてこちらを覗いた時のカウンターはまだ3ケタだったのに、すでに5ケタ・・・
私が作製しているわけでもないのに勝手に嬉しくなっちゃいます(^^)

Posted by katuko at 2013年04月28日 11:59
新撰組のお二人の掛け合いが、まるで本編を見てるようです!しゃべり方もそっくりでホントすごいです。
Posted by とも at 2013年04月28日 16:27
>馨さま
コメントありがとうございます!
今回は今までと毛色が違うので、ちょっと心配でした(笑)
一番乗りでコメントしていただいて、ありがとうございます〜♪
ドキドキしていただけて光栄です(^^♪

>kamikakusiさま
コメントありがとうございます!
ハラハラドキドキしていただけて、ほんとに嬉しいです。
今までと雰囲気が違うのでどーかなー、と思ってたので・・・(笑)
でもやっぱり小娘ちゃんに頑張ってほしかったので、決行しました。
続きはこれから書きます。頑張ります!

>みなみさま
コメントありがとうございます!
家事に身が入らないほど楽しみにしていただけて、ありがとうございます。
ご家族に怒られたらふじのせいにしてください(笑)
あまり殺伐としても幕恋らしくないし、ちょっとだけ臨場感をだしたいな、と思ってました。
だからわかっていただけてうれしいです。

>katukoさま
コメントありがとうございます!
今回は今までとちょっと雰囲気がちがうので、みなさまにコメントいただくまでドキドキでした(笑)
だから、ほんとにうれしいです。
カウンターも皆様のおかげでいつの間にか5ケタになって、ありがたいですね。
気づいて喜んでくれるなんて、むしろそっちが私には嬉しいです♪

>ともさま
コメントありがとうございます!
平ちゃんと土方さんの会話は、書いてて楽しかったです。
平ちゃんならこう言うかな、土方さんならこういかな、とか。
新選組の捕り物なんだから刀を抜いてもおかしくないんですが、そこは幕恋ですから殺伐厳禁で行かせていただきました(笑)
Posted by ふじ at 2013年04月28日 20:11
ヤフーのゲームサークルでサイト名を拝見してお邪魔してます。この作品、どころかジャンルも初、はじめたばかりだったので武市さんの本編お話見終わって、やっと拝読できました。
お話、キャラクターのやりとりも楽しいですが。
時代差・思想の差がある物語ならでは内容や、本編と語調がほとんど無いのがすごいと思います。
趣味で自作を書くのですが、二次創作にはなかなか手を出せない最大の理由が、原作との文章差なので。

ゲームの性質上、普通の小説と違って、主人公の名前が固定しないので、名前を自分で入力できるシステム、昔からあるのは知っていましたが、こちらでの使い方、とてもしっくりくる気がします。

お話の続きやレポート等、楽しみに、ちょこちょこアクセスさせていただきたく思います。
Posted by R at 2013年04月28日 22:35
>Rさま
Rさまはご自分で書かれるのですね。丁寧な感想、恐れ入ります。
こんな風にたくさんの皆様に読んでいただいてる私ですが、ぜんぜんまったく、小説歴1か月に満たないド素人ですので、Rさまから見たら至らないところが数々あると思うのですが、こんなにお優しいコメントを書いて頂いて、本当にありがとうございます。
・・・なんか一気に書いたので、息切れが(笑)
ご来訪、ありがとうございました!
Posted by ふじ at 2013年04月29日 00:39
色々なキャラが出てきてますます楽しみです。
桂さんが出てきて嬉しい〜!(^^)!
Posted by akane at 2013年04月29日 01:21
>akaneさま
桂さん出演を喜んでいただけて良かったです(笑)
たった今、中編をアップしたので、そちらも合わせてご賞味ください(笑)
桂さんもすてきなキャラですよね〜(*^_^*)
私はイベントではかなりの確率で桂さんが当たるので、縁もあるのだな〜とちょっと勝手に思ってます。
コメント、ありがとうございました!
Posted by ふじ at 2013年04月29日 08:23
平助くんカッコいいいいい!
最近平助くんの株がダダ上がり中なので期しくもこちらで拝見できてラッキーです!以蔵もきゃわわでした><*

いかんです、こちらのサイト様の作品を読んでいるとサークルよりもテンションが上がってしまいます・・・

優しくて、本来は詰問するべき対象の為に立場が上の土方さんにも食ってかかる気の強さ。
開通して間もない平助くんのキャラをここまで掴めてるなんてすごいです。
あーもうホント平助くんとfujiさんに惚れてしまいます!
Posted by 小鳥 at 2013年04月30日 03:53
>小鳥さま
平ちゃんはルート開設前からのお気に入りです。
まだルートはやってませんが、小鳥さまにそう言っていただけると、ホッとします。
キャラがずれてなくてよかった〜
大久保さんルートが正直今のとこ「うーん?」て感じなので、平ちゃんに期待してます(笑)
大久保さんはいいんだけど、小娘ちゃんが・・・ふたりの先が想像できない(笑)まだ序盤なので、これからなのかもしれないですが。
コメント、ありがとうございました!
Posted by ふじ at 2013年04月30日 14:09
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