2013年04月16日

うさぎ恋しき(前編)

幕末志士の恋愛事情、武市半平太先生ルートの二次小説です。
以前の作品については左のもくじをご覧ください。

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うさぎ恋しき(前編)                    幕恋創作小説:武市ルート
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「おい、。何をしてるんだ、お前。」

夕餉を済ませた後、寺田屋の台所を手伝っていると、以蔵が廊下から顔だけのぞいて言った。
何って・・・食事の片付けと泊り客のお酒の支度を手伝ってるんだけど。
お盆に乗せて今まさに運ぼうとしていた、お燗にしたお銚子を見下ろす。

「だからコレを」
「・・・お前に酒なんか運ばせたと先生が知ったら・・・」

「え、だめなの?
 ・・・別にいつもみんなに運んでるし。それに今日は特に忙しそうだったから・・・」

以蔵があきれ顔でわたしを見た。

「お前・・・俺たちに運ぶのとはちがうだろ・・・」
「・・・そうなの?」

以蔵は、はーっとため息をついた。
う。激しくあきれられてる・・・

「・・・部屋で先生が呼んでる。すぐに行け」

「武市さんが?」

なんだろ。

「・・・盆は置いてけ。」
「あ。じゃあ、以蔵コレ大部屋にお願い!」

わたしは以蔵にお盆ごと押し付けた。

「まて、なんで俺が・・・おい!」

背中から以蔵の声が聞こえたけど、まあ、いいや。
それより武市さん、何かあったのかな・・・。
今日は夕方に文が届いてから、ずっと龍馬さんと慎ちゃんと何か話し合ってたから・・・

「武市さん、です。入っていいですか?」

わたしは障子の外で声をかけた。

「ああ、。入って。」

いつもの柔らかい声がして、ちょっと安心する。
別に悪いことや緊急事態が起こったとかじゃないみたい。

障子を開けると、なんだか珍しく部屋が雑然としていた。
着物や草履、書物、小物などが畳に並んでる。
その真ん中に武市さんが座っていて、わたしをみて微笑んだ。

「散らかしててすまない」
「どうかしたんですか?」

わたしは膝をついて障子を閉めると、武市さんの近くへ進んで、座った。

「実は急に大阪まで出向かなくてはならなくなってね。」
「大阪・・・ですか」
「人に会って話さなければならない。
 初対面だが、僕の古い友人と知己らしくて、僕が行くのが適当だろうということになった」

ええと・・・それはわたしはお留守番・・・なんだよね?

「慎太郎を連れて行く。はここで待っててくれ」

・・・やっぱり。

「はい・・・」

でも大阪なら・・・舟ですぐだっていうし。きっとすぐ戻ってくる・・・はず。

「明日から五日ほどかかると思うけど・・・」
「――えっ!五日もかかるんですか!?」

思わず声を上げると、武市さんが一瞬目を丸くしてから、ふっ、と笑った。
あ、わたしつい・・・

「淋しい?」

さ、淋しいのはホントだけど・・・

「僕は淋しいよ」

――!

わたしも淋しいです・・・。―――その一言が素直に出てこない。
わたしの葛藤に気づいているのかいないのか、武市さんは構わず話を続けた。

「・・・一応、追われてる身だからね。少し遠回りをする」
「え、舟・・・じゃないんですか?」

寺田屋近くの舟着き場からは大阪へ行く舟が出てたはず・・・だけど。

「舟だといざって時に逃げ場がないからね、かちで行くよ」
「かち・・・?」
「ああ、かちは歩きってことだね。
 普通なら往復二日だけど、遠回りするから往復三日みて・・・人に会うのに二日」

歩き・・・それで五日もかかるんだ・・・
しかも出歩けば新選組に見つかる可能性も高くなる。
大丈夫かな・・・

「そんなに心配そうな顔をしないで」

武市さんはわたしの頭をぽんぽんとやさしくたたいた。
―――いけない、大変なのは武市さんなのに。わたしが心配かけちゃうなんて。
わたしは顔を上げて、精一杯にっこり笑った。

「気をつけて・・・行ってきてくださいね」
「ああ。・・・もおとなしく待ってるんだよ」
「おとなしくって・・・それじゃいつもはおとなしくしてないみたいじゃないですか」

ぷうっとふくれると

「それじゃいつもは、おとなしいみたいだ」
「武市さん!」
「ほら」

もうっ!そんなにわたし、お転婆じゃ・・・ないよね、最近は。

「僕は好きだけどね」

・・・・・・っ!

ぜ、ぜったい武市さん、わたしの反応見て楽しんでるよ・・・
・・・・・・う、うれしいんだけど、でもどうしていいかわからなくなっちゃう・・・

「え、えーっと・・・あ!じゃあこれは旅の支度ですか?」

わたしは周りに並べてある着物や小物を見て言った。

「そう。明日は朝早く出るから、は寝てていいよ。」
「そんな・・・」
「そのかわり、今から支度を手伝ってくれるかな」
「はい!」

よかった、役に立てることがあって。

「じゃあ、これを・・・」

カララ・・・
武市さんが取り出したのは、黒い楕円形の小さな箱が縦に4つ、紐でくくりつけられてる容器だった。
なんだろ、携帯灰皿?

「印籠だよ」
「え、これが?」

水戸黄門のおじいちゃんが持ってる、「この印籠が目に入らぬか!」ってやつだよね。
あれ?持ってるのはおじいちゃんじゃなくって、スケさんカクさん・・・だっけ?

「未来にも印籠はあるんだ?」
「あ、いえ・・・。テレビ・・・じゃなくてえっと物語の中でよく出てくるんです」

テレビはさすがに通じないよね。

「・・・これをどうすればいいんですか?」
「薬を入れてくれる?」
「え!薬入れなんですか?これ!」

てゆうか、入れ物なんだ、印籠って。

「その物語の中では使い方は出てこないの?」
「はい、そういう使い方は・・・印籠って身分証明書か何かかと思ってました」
「身分証明・・・ああ、家紋を入れてる人もいるからね。」

そうか、薬入れなんだ・・・。

「常備薬を持ち歩くためのものだよ。普段は使ってないが、旅には必要だからね」
「・・・だから箱が4つに分かれてるんですね。」

箱ごとに違う薬を入れられる様にできてるんだ・・・
わたしは武市さんが言うとおりに、丸薬や薬包を小さな箱に丁寧に入れた。
箱の両脇に通ってる紐を絞ると、箱が重なって、手のひらに乗るくらいの一つの容器になる。

あ・・・
分かれてた箱が重なると、なんだかわからなかった模様がはっきり見えた。
なんだかパズルみたいでおもしろい。

「あ、これ、うさぎじゃないですか?」

浮き上がった絵柄は意外にもうさぎだった。

「かわいいですね」
「そう?うさぎは薬と縁が深いからね。
 支那の故事ではうさぎは月で薬をついてるって言われてるんだよ」

支那・・・ってたしか中国だよね。しなそば屋って書いてあるラーメン屋とか未来にあったし。
でも、薬?

「薬ですか?もちじゃなくて?」

月のウサギは餅つきしてるんじゃなかったっけ。

「日本ではそうだね。支那ではさすが漢方の国というか、薬なんだそうだよ」
「へえ・・・日本と中国、じゃなかった支那でそんな違いがあるんですね」
「それにうさぎは書物とも関係が深い。
 うさぎの毛で作った筆は固くて書きやすいから昔の書家ではうさぎを護りとした人もいたんだ」

へえ・・・。うさぎの毛って固いんだ。柔らかそうなのに意外。
武市さんて、なんでもよく知ってるな・・・

「じゃあこのうさぎの印籠は武市さんのお守りですね」
「・・・・・・そうだね。今回の旅では得にね。」
「?」

武市さんがにこりと笑った。
よくわからないけど、今回の大阪行きに印籠が関係してるのかな?
わたしは薬をしまい終わった印籠を武市さんに手渡した。

「他には何をお手伝いすればいいですか?」
「ありがとう。もうこれで充分だよ」
「え?これだけですか?」

だって、まだ、薬を入れただけだよ?
旅の支度の手伝いなんかまだ全然・・・

「これだけはにしかできなかったからね」
「そうなんですか?」

武市さんはまた笑って言った。

「印籠はね、想い人に用意してもらうと旅から無事に帰れるって言われてるんだ」
「・・・・・・!」
「お守りもできたし、これで僕も大丈夫かな?」

想い人・・・武市さんの・・・
わたしは真っ赤になってうつむいた。



武市さんの手のひらが、熱くなった私の頬を包む・・・。
やさしくて大きな手・・・
わたしはその手に自分の手を重ねて、武市さんを見上げた・・・
わたしたちは、無言で・・・見つめ・・・合う・・・

その時。

「おう、武市。持ってってもらう文がでけたんじゃが・・・」

――龍馬さんの声!

間髪入れえずにガラッと障子が開いた。
思わずのけぞったわたしと、障子をあけたまま固まった龍馬さん。

「・・・・・・・・・」

しばらくわたしたちの間には沈黙しかなかった。

「・・・・・・・・・」

ど、どうしようこの状況・・・

「・・・・・・龍馬、きさま・・・」

ゆらりと武市さんが立ち上がる。
その表情は・・・コ、コワイ・・・

「た、たけち、落ち着かんかっ!」
「・・・きさまはいつになったら礼儀をおぼえるんだ・・・!」
「ま、まて武市!わしはいつも入り問いなどせんではないか!」
「ならば今覚えろ!だいたいお前は昔から行儀がなってない!」
「わしは寺小屋も行っちょらんからのう、そったら事は教わったことがなか!」
「だからこそだ!お前が寺小屋を追い出された後、面倒見たのは誰だと思ってる!」

ケ、ケンカが始まっちゃったよ・・・

「何事っスか?姉さん」
「慎ちゃん・・・」

騒ぎを聞きつけて、慎ちゃんが来てくれた。

「・・・あーあ。またですか。なんですか?原因は」
「えーっと・・・それは、その」

武市さんと見つめ合ってたとこに龍馬さんが障子を開けたから・・・なんて言えないよ!
思い出して、カッと頬が赤く染まる。
ぎこちなく、あはは、と笑ってごまかしてみた・・・んだけど。

「なるほど、わかったッス」
「・・・ええっ!わかっちゃったの!?なんで!?」
「姉さん・・・それじゃ言ったも同然ッスよ」

そ、そうかな?

「姉さんが赤面する状況だったとこに龍馬さんが乱入したってとこッスね」

う・・・ホントにわかってるし・・・

「まあ、じゃあ姉さんはとりあえず部屋に戻ってください」
「で、でも・・・」
「いいから、いいから。あとはオレにまかせて」

・・・たしかに。こういう時、場を収めるのは、いつも慎ちゃんなんだよね・・・。

「じゃ・・・」
「はい、おやすみッス」

「おやすみなさい。あ、それと・・・明日、いってらっしゃい。気を付けてね。」
「かたじけないッス!」

武市さんをお願いします、って言いたかったけど・・・
そ、それって、なんだか奥さんみたいだよね・・・あつかましいかな・・・

「大丈夫、武市さんはオレにまかせてください」
「ええっ!?なんで・・・」
「だから、姉さんは分かりやすいんですって」

そ、そうですか・・・

「・・・じゃ、おやすみなさい。」

わたしは廊下から部屋に戻ってパタンと障子を閉めた。
しばらくすると、隣から聞こえていた武市さんと龍馬さんの言い合う声が収まる。
ほんとに慎ちゃんてすごいなあ・・・

それから、三人は武市さんの部屋で何か静かに話してるみたいだった。

わたしは武市さんにおやすみなさいを言いそびれてしまったのが気になって、
布団の中にもぐりこんだまま、三人が話し終わるのを待ってた・・・つもりだったんだけど。

いつの間にか、寝てしまっていた・・・



目を覚ました時にはもう辺りは明るかった。
はっとして布団をはねのけると、襖に駆け寄る。
襖に手をかける前に、あわてて浴衣の合わせと髪を手櫛でざっと直した。

「た、武市さん、もうでかけちゃいました?」

と、声をかけて襖を細く開ける。
そこには――――もう武市さんの姿はなかった。

―――お、おやすみどころか、行ってらっしゃいも言えなかった・・・
わ、わたしって・・・

「ああ、ちゃん、おはようさん」

とにかく顔を洗おうと手拭いを持って井戸に向かうと、お登勢さんが桶に水を汲んでいた。

「おはようございます・・・」
「どしたん?元気ないやないの?」
「・・・武市さんと慎ちゃんに行ってらっしゃいが言えなくて」

ぐーすか寝てた・・・んだよね。わたし。

「ああ、まだ日も上がりきらん暗いうちに出はったから。」
「お登勢さんは見送ったんですね」
「握り飯もたせたらんとあかんかったからな。でもちゃん」

お登勢さんはそう言いながら、くふふ、と笑いをこらえた。

「武市先生はちゃんの寝顔、見てかはったで?」
「ええっ!」

ね、寝顔・・・!?

「そらもう、愛おしそぉーに見てはったわ。
 うちが起こさはったらええのに、ゆうたら
 いいんです、寝かせといてあげたいからってゆわはって。」

うう・・・わたしどんな顔で寝てたんだろ・・・

「ほんま、めおと のようやね、ちゃんと先生」
「め、めおとって・・・お登勢さんっ」
「あはは!顔、真ーっ赤やで、ちゃん。」
「お登勢さんっ」

お登勢さんは笑いながら桶を下げて行ってしまった。

「もう・・・」

井戸につるべを落として縄を繰り、水を汲む。
タライに張った水で顔を洗うと、熱かった頬が冷えて気持ち良かった。
ぴちゃん。
水がはねて、ゆらゆら揺れる水面に、武市さんの面影が浮かぶ。

「・・・起こしてくれて、いいのに・・・」

自分だけ、わたしの顔見て行っちゃうなんて、ずるい。
わたしだって、武市さんの顔が見たかったよ。

・・・起きなかったわたしが悪いんだけど。

「今頃どこ、歩いてるのかなぁ・・・」


見上げると、空は青くて。
この空の下なら、きっと足取りも軽いだろうと思うと、少し安心した。

いつも隣の部屋にいてくれた武市さんがいないのは・・・淋しいけど。
大事なお仕事、だもんね。
わたし、ちゃんと待ってるから・・・

「無事に・・・帰ってきてくださいね」

わたしは空に呟いた。

同じ空の下にいる武市さんに、慎ちゃんに。
届いて欲しいと、願いながら・・・。


つづく


posted by ふじ at 08:13| Comment(5) | 連作長編―武市 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
初めまして!
こんにちは(^.^)
いつも、やさしい武市さん楽しみにしてます!
印籠って薬入れなんですね。
全然知りませんでした。
私も水戸黄門様の知識しか・・・・

小娘ちゃんってちょっとづつ各志士好みの性格になってますよね??
武市先生の小娘ちゃんはちょっとおっちょっこちょいの甘えん坊の様な気が///
では、続き楽しみにしてます!
Posted by mimi☆home at 2013年04月16日 12:57
>mimi☆homeさま

はじめまして、いらっしゃいませヽ(^。^)ノ
主人公は、たしかにちょっとずつそれぞれの好みの性格になってますよね。
ルートでもちょっと違うかも。
土方さんの風ルートの主人公の鈍さはハンパじゃありません(笑)
大久保卿がスタートしたらどんな小娘ちゃんになるのか楽しみです。

ブログ拝見させていただきました。
すごい!かわいい!
Posted by ふじ at 2013年04月16日 19:34
初めまして。モバゲーのサークル掲示板で噂を目にして昨日はじめてお邪魔しました。
完結作品を一気に読んでしまい、名残惜しく閉じましたが、今日また覗いてみたら早速新作!
もう大興奮です。
もはや本家のシナリオも書いて欲しいほど(笑)
こういうコメントは普段あまり残さないのですが、我慢できませんでした^^;
ここの先生を読んで、更に武市先生好きになりました。

今後も楽しみにしてます^^
Posted by AYO at 2013年04月16日 20:20
>AYOさま

はじめまして。ご来訪ありがとうございます。
普段残さないコメントをのこしていただけるなんて、うれしいです(〃ω〃)
創作小説はそんなに急いで書く必要はないんですが(笑)
ストーリーを思いつくと、書きたくなるし、
書いちゃえばアップしたくなるしで、
ふと気がづけば割とコンスタントにあげてますね。
しかもオール武市先生。
始める前はこんなことになるとは思ってませんでした(笑)

せっかく立ち上げたブログ、できるだけ続けたいと思ってます。
今後もよろしくお願いします。
Posted by ふじ at 2013年04月16日 23:49
★武市半平太サークル:モバゲーコメントへのお礼★

>菜々子さま[196]2013/4/16

いつもありがとうございます。
武市先生と龍馬さんのケンカは書きたいもののひとつでした。
ほっとくと長くなるので削りましたが(笑)
楽しんでいただけてうれしいです。
Posted by ふじ at 2013年04月17日 21:07
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