2013年04月09日

つばき薫りて(前編)

幕末志士の恋愛事情、武市半平太先生ルートの二次小説です。
独立したお話ではありますが、過去の作品と時系列はつながってるので、
よろしければ、前々作「その言の葉の意味は」、前作「桜舞い散り」もどうぞ。

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つばき薫りて(前編)                    幕恋創作小説:武市ルート
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武市さんも龍馬さんも、慎ちゃんも出かけた寺田屋で、わたしは中庭を掃いていた。

桜も終わって、緑がますます濃くなっていく季節。
ポカポカとあたたかくて、空気もやわらかい。

春だなあ・・・

そこに、パタパタパタ、と足音が聞こえて、

「・・・ああ、ちゃん、いつもありがとな。ちょっと掃除片してこっち来ぃへん?」
「お登勢さん」

お登勢さんは寺田屋の女将さんだ。
龍馬さんと身内みたいに仲がいい。
わたしにもとても良くしてくれて、娘のようにかわいがってくれてる。

「何かおつかいですか?」

たまに頼まれて、お使いに出ることもあるのでそう聞いてみた。

「ふふ、ええから、こっち」
「?」

お登勢さんに促されて宿の一室へ入ると、
風呂敷包みからいろんな道具を取り出して並べてる女の人がいた。
誰だろう?

ちゃん。この人な、お千代ちゃんゆうて、うちの知り合いの かみゆい やねん。
 まだ修行中で場数踏みたい言うから、ちゃん、手伝ってくれへん?」

かみゆい・・・?
髪結い、かな。美容師さんみたいなもの?
よくわかんないけど、わたしに何か手伝えることがあるのならもちろん・・・

「いいですよ。でも何をすればいいんですか?」
「だから、お客さんになってほしいねん」

お客さん・・・て、え!

「髪を結うってことですか!?」
「ええやろ?」
「でも、わたしの髪の長さじゃ・・・」

ロングはロングだけど、前髪が普通の長さのわたしじゃ日本髪は無理じゃないかな。
こっちにきてからお登勢さんや女中さんと話したりして、知ったけど
みんな前髪が後ろと同じくらい長いんだよね。

「大丈夫ですよ、かもじ持ってきてますから」

千代さんがにっこりと笑って言った。
かもじ?
初めて聞く言葉だ。

「かもじってなんですか?」
「かもじってのは、地髪だけで足りん時に足す髪の毛のことや。
 ・・・ああ、ちゃんはな、深窓の箱入り娘をお武家さんがさらって来た子やねん」

前半はわたしに、後半は千代さんに向けて冗談ぽく、お登勢さんが言う。
この時代の単語を知らないわたしを適当にごまかしてくれたんだろうけど、
さ、さらってきた、って・・・

何故か武市さんを思い浮かべてしまって、わたしは赤くなった。

「さあさ!はじめまひょ!ちゃん、ここ座って」
「あ、はい。じゃあお願いします。」

示された場所に、千代さんに背を向けて座る。
まず肩に手拭いが置かれて髪を梳かされた。
この辺は未来とかわらないなあ。

「お千代ちゃん、鬢水かして。うちも手伝うわ。」
「そうですね、お願いします」


練習なのにお登勢さんが手伝ってもいいのかな。
ま、いいか。そういうものなのかも。

「髷は、やっこよりつぶし島田がいいですかね」
「そやね。鹿の子つけて初々しくな。」
「・・・・・・」

うーん、まるでわからない。
もうこうなったら、まな板の上の鯉、ってやつだ。

ちゃん、ええ髪しとるなあ」
「そうですか?」

ただ真っ黒で真っ直ぐなだけなんだけど。

「ほんとにきれいな御髪ですよ。なかなか見ないです、こういう髪は」
「そう・・・ですか?ありがとうございます」

??
さっきは千代さんあんまり髪結いの経験がないみたいなこと、言ってたけど。
たいしたことじゃないけど、なんか違和感が・・・あるような。

あちこち髪を引っ張られて、オイルでまとめて、結ばれて。
だいぶ時間はかかったけど、なんとか形になってきたみたい。
すると、カチャカチャと後ろで器を開ける音がして、とたんに花の薫りが部屋に広がった。

「・・・なんかいい匂いがしますね」
「匂い油や。これはつばき、な。」
「へえ、つばき・・・」

未来でもツバキ油ってあるもんね。シャンプーもそういう名前のがあるし、髪にいいのかな。

「さあ、でけた。どうやろお千代ちゃん」
「いいですね、若々しくって。」
ちゃんも見てみ。ホラ」

と、手鏡を渡される。
でも、この時代の鏡ってあんまりよく見えないんだよね・・・
鏡の中にぼんやりと日本髪の女の子らしい影が映っている。
時代劇にでてくる町娘、て感じ?

「・・・慣れないんで変な感じですけど、お登勢さんどうですか?」
「いやぁ〜よう似合とるで。ほんまに可愛らしいわ」
「ほんとですか?・・・えへへ。」

そっか。
お登勢さんがそう言うならほんとに似合ってるのかな。うれしいかも。
・・・・・・武市さんなら何て言ってくれるかな・・・。

ちゃん、そしたら着物も替えまひょ。
 せっかく髷結うたんやから、張り込まんと。うちの娘時代のお着物出したるさかいに」

ええっ?

うーん、キレイな着物は来てみたいけど、でも。
・・・・・・今日は武市さん、朝から出かけてるんだよね。
オシャレしても武市さんに見てもらえないんじゃ意味ないしなぁ・・・

「武市先生には使い出して、外で待ち合わせたらええよ」

・・・・・・――――。

えええええっ!!?

「ななななななんでっ!?おおおお登勢さんわたしっ!声出てましたっ!?」
「あはは、ちゃんの考えることは、みぃんな筒抜けや」

そう言って、お登勢さんは自分の頬を指さす。
か、顔に出てるって、こと?
うわあぁ・・・そう言えばよく言われる・・・。は、恥ずかしい・・・・・・

「ほら、そうと決まったら着物替えや。めいっぱい綺麗んなって、先生おどろかしたろ」
「は、はい・・・・・・。」
「お千代ちゃん、お着物とってくれはる?」
「ええ」

くすくす笑いながら、千代さんがすっと立って、次の間から明るい色の着物を持って来る。
あれ・・・・・・?また違和感。

「柄はあじさいやねん、どうやろ」
「わぁ・・・かわいい・・・」

薄い黄色にスミレ色のあじさい。
かわいくてすがすがしい、初々しい感じの着物・・・
と、わたしはあることに思い当たって、お登勢さんを見た。

「・・・お登勢さん、もしかして・・・ウソつきましたね?」
「んん?なんのことやろ」

お登勢さんはわざとらしく笑ってわたしを見た。
わたしは確信して、言った。すごく、嬉しい気持ちで、自然と笑っていた。

「髪結いの練習台に、なんて言ってたけど。
 ほんとはわたしのために準備してくれたんですね。
 千代さんの練習なのにお登勢さんが手伝ったり、着物が用意されてたり。
 千代さんだって、ほんとは修行中とかじゃなくてたくさん仕事してる方でしょ。」

「あらあら、ばれてしもたわ」
「ありがとう!お登勢さん!」

わたしはお登勢さんに抱きついた。

「・・・ちゃんにはいーっぱい手伝うてもらてるからな。ほんの恩返しや」
「ううん、そんなことない。恩返ししなきゃいけないのはわたしの方なのに」
「ええんやで。ちゃん来てからほんま、店が明るうなったしな。
 ほら、さっさと着替えてお出かけや。使いは出しとくさかいに。」
「うん、ありがとうお登勢さん」

本当に。
わたしのまわりには優しい人ばっかりで、わたしはいつもそれに甘えさせてもらって。
みんなに出会わせてくれた神様に、いくら感謝しても足りない。

武市さん・・・
なんか今、すごく、会って話がしたいよ・・・・・・。


☆ ☆ ☆ ☆

着物を着付けて、ちょっとだけお化粧して。
準備が済む頃、武市さんに出した使いの人が戻ってきた。
ちょうどあと小半時もすれば武市さんの用事が終わるらしく、
その頃に出先の屋敷の近くの、お寺の境内で待ち合わせすることになった。

「いやぁちゃん、別嬪さんやで。こら先生も惚れ直すこと請け合いや」
「そ、そうですか?」

ほ、惚れ直すなんて言われると・・・うれしいけど恥ずかしい。

「岡田先生が暇そにしてたんで、寺まで送るん頼んどいたわ」
「え、そんな。以蔵に悪いですよ。大丈夫です。道はわかるし、一人でも」
ちゃん、それはあかん」
「なんでですか?」

なにか、作法というか、この時代のルールなのかな?

「どんだけ自分別嬪さんやと思てるん。こーんな娘さんが独り歩きしとったら、
 すーぐ、かどわかされるわ」

かどわかされ・・・って、えええ?

「悪いことは言わん、送られとき。」
「は、はい・・・」
「ほな、行ってらっさい。おきばりやす。」

お登勢さんがその場で手をついて芝居がかったお辞儀をした。
おきばりやす・・・何を?
「ありがとう、お登勢さん。行ってきます」

玄関へ行くと、以蔵が待ってる後姿があった。

「以蔵、急にごめんね。」
「・・・まったく、なんでワザワザ外で・・・!」

振り向いた以蔵が止まった。

「い、以蔵?」

ぽかんとわたしを見てる。

「ちょっと、以蔵。どう・・・・・・あ!やっぱりこの格好、おかしい!?」
「い、いや・・・・・・」
「お登勢さんは褒めてくれたんだけど・・・自分じゃよくわかんないし。ねぇ、ダメかな。」
「いや、だからその・・・」
「やっぱりいつもの格好の方がいいのかな・・・でももう着換える時間が・・・」
「いや、だから、ちがうっ!」

急に以蔵が怒鳴った。
以蔵のこういう声には慣れてるわたしも、ちょっとびっくりした。

「いいから行くぞ!」
「は、はい!」

くるっと振り返ってすたすたと歩き出す、以蔵。
ちょ、ちょっと待って。
置いてかれそうで、あわてて背中を追いかける。

何がそんなに気に障ったんだろう・・・・・・
てゆうかそんな事より、この格好ほんとに大丈夫かな・・・
武市さんに・・・変、って思われたら・・・わたし・・・
さっきまでの楽しい気分が削がれて、ちょっとうつむきながら以蔵の後について歩く。

「・・・・・・ってる」

え?

「以蔵、何か言った?」
「・・・・・・・・・よく、似合ってる、と言った」

前を向いたまま、以蔵が言った。

「ほんと?良かった〜!もう、以蔵ったらおどかさないでよ」

ほっとして、つい、「武市さんも・・・・・・あっ!」
気に入ってくれるかな、と言いかけてあわてて口をとじる。
今すっごく恥ずかしいこと言っちゃった・・・!

「そんなことは、知らん。」
「で、ですよね・・・」
「・・・・・・だが・・・」
「?」

以蔵が何か言いかけて、やめた。

「なに?」
「・・・いや。なんでもない。」
「ええ?言いかけといてそれはないでしょ」

「・・・・・・言わん」
「ちょっと以蔵ってば」

以蔵がちょっと振り向いて、すこし笑った。

「言ったら先生に斬られそうだからな」

なにそれ!
何を言うつもりだったんだろ。

「もう、いいです・・・」

どうせ、なんか憎まれ口だったんだろうな。
まあ、いいけど。
追及するのもばからしく思って、あとは訊かずに以蔵の後ろを付いて歩いた。

春の陽気に人出は多い。
以蔵はできるだけ人混みを避けて道を選んでるようで
慣れない格好のわたしも、そんなに困らずに歩けた。
口は悪いけど、やっぱり優しいんだよね、以蔵って。

「・・・歩きやすい道を選んでくれて、ありがと。」

以蔵の背中に声をかける。

「・・・お前のためじゃない。敵に見つからんようにしてるだけだ」
「そう?それでも、ありがと。」
「・・・・・・だから礼はいらん」

やっぱり憎まれ口。
ふふ、と笑いがこみあげて、あわてて以蔵に気付かれないよう飲み込んだ。


☆ ☆ ☆ ☆

しばらく歩くと目指すお寺が見えてきた。
山門の近くに、見慣れた姿を見つけて、嬉しくなる。
なんか、外で待ち合わせるって、どきどきしちゃうな。

「武市さん!」

声を掛けながら走り寄ると、武市さんがこっちを見て目を丸くした。

「・・・・・・っ!・・・・・・」

う、想像以上に驚いてるけど・・・・・・
だ、大丈夫かな?わたしの格好、変じゃない、よね? ね?

「あの、お登勢さんが、着物を貸してくれて。それと、髪も結ってくれたんです。
 へ・・・変じゃないですよね?」

・・・すごく・・・・・・綺麗だよ」

武市さんが、ふわり、と笑って言ってくれた。
あの、わたしの大好きな、やさしい笑顔で。

「よかった・・・・・・」

武市さんに、変て思われなくてよかった・・・と思ってホッとしたけど、
そこで初めて、武市さんが「綺麗だよ」って言ってくれたことに気付いて。
わたしは、全身が一瞬でパッと赤く染まったように感じた。

「い、以蔵がここまで送ってくれて。ね、いぞ・・・あれ?」

振り向くと、そこに以蔵はいなかった。

「以蔵はすぐ引き返したよ」
「ええ?お礼も言ってないです、わたし・・・」
「珍しく、気を利かせてくれたみたいだね」

気を利かせたって、それはつまり・・・ふたりきりにしてくれたという・・・

「・・・それにしても、、良く似合ってるよ」

うう・・・。
嬉しいけど、そんなにストレートに褒められると・・・どうしていいか、わからない。

「・・・紅も塗ったんだ?」
「は、はい・・・。お登勢さんがちょっとだけお化粧しようって」

合わせ貝の内側に塗られた赤い紅を、ちょっとだけ唇にのせた。

「・・・おしろいは塗らなかったんだね・・・すごくいいよ」
「そ、そうなんですか?」

おしろいは、千代さんが準備しようとしたら、
お登勢さんが無い方が若い娘さんらしいからって止めたんだよね。
今、京では薄化粧が流行ってるらしい。

「うん、は肌が白いから・・・それに」

武市さんはそこでまたニコッと笑った。
頬があつい。
ぜんぜん冷める暇がないよ・・・

「・・・もうひとつ、理由はあるけど」
「な、なんですか?」

「・・・・・・そうだね。教えてあげてもいいけど・・・」

な、なんだろう。
ちょっと考えるような仕草をしていた武市さんが、何か思いついたように微笑んだ。

。ここは人が多いね。」
「え?あ、はい。お寺に参拝に来てる人、いっぱいいますね。」

未来じゃお寺なんてお盆とか以外はそんなに混まないけど、
この時代はわりといつもこんな感じだ。
みんな信心深い、のかな。

「だから・・・もっと人気のないところへ行こうか」
「はい。――――って、ええっ!?」

「おいで」
「は、はい・・・」

微笑みとともに差し出された武市さんの手に、わたしはおずおずと手を伸ばした。
震えがちな私の手は、武市さんの大きな手のひらにきゅっと握られて・・・。
わたしの心臓はまるで早鐘のように・・・鳴り続けていた。


<つづく>


posted by ふじ at 17:13| Comment(5) | 連作長編―武市 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
モバゲの掲示板から今日初めて知って、早速読ませていただきましたm(--)m
時間忘れてイッキに全作読んじゃった!おもしろかった〜・・・(余韻)自分の名前を入力できるご配慮すごく嬉しい〜(*^^)v武市どハマりファンにはたまらないお話ばかりでした!(^^)!
あ。1つ気になったのですが「桜舞い散り(後編)」の鳥居の絵の後5行目と、一番最後から4行目が名前変換されてないなぁと。私だけかな?
「つばき薫りて」の続編楽しみにしています♪
Posted by katuko at 2013年04月10日 00:28
>katukoさま
うわぁ、ほんとだ・・・
大変失礼いたしました。教えてくれて助かりました〜!
本文を書くときは、イメージがつかめないので、
いつもの主人公の名前で書いて後で変換するのですが
見逃しがあったようです。すいません。
ちなみに本編ゲームで名前決める時の話ですが、
てっきり江戸時代の子が主人公だと思ったのに
始まってみて現代なのでびっくりしました(笑)
古風な名前にする必要なかった・・・

同じ武市先生ファンとして、読んでいただいて、
その上喜んでいただいて、うれしいです〜。
Posted by ふじ at 2013年04月10日 01:25
★武市半平太サークル:モバゲーコメントへのお礼★

>菜々子さん[162]2013/4/9
楽しみにしていただけて、光栄です。
後半は随時アップしていきますが、どんどん長くなっているようで
収拾がつくか心配です。がんばって書くのでよろしくです。

>kirakirarinnさん[163]2013/4/9
はじめまして、です。すべて読んでいただいて、ありがとうございます。
武市さんそのもの、感動ですと言っていただけてとっても嬉しいです。
文章には私も自信がありません・・・がんばって書きますのでたまにお寄りくださいませ。

>永禅さん[164]2013/4/9
読んでいただいてありがとうございます。続きを楽しみにしていただけるなんて、
ほんとにうれしいです。私としても楽しんで書かせていただいてます。
ただ、時間がかかって寝不足になるのが困ってます。
Posted by ふじ at 2013年04月11日 00:09
処女作から見てます。
ドキドキの前半ですね。また以蔵がいい味出してるわ。
そして、エロいです。先生・・・・。
後半、楽しみ♪
(本編はまだまだなのでこちらでニヤニヤと・・・楽しんでる日々)
Posted by デュラ at 2013年04月15日 14:33
>デュラさま

はじめから読んでいただいて、ありがとうございます!
武市先生は志士メンツの中でエロ担当(笑)ですので、
そこを出すのに日々がんばってます。

ニヤニヤしていただけてうれしいです。
近々新作アップも予定しております。よろしくお願いいたしますm(_ _)m
Posted by ふじ at 2013年04月15日 17:52
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